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hellog〜英語史ブログ / 2014-05-13

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2014-05-13 Tue

#1842. クレオール語の歴史社会言語学的な定義 [creole][terminology][sociolinguistics]

 この3日間の記事「#1839. 言語の単純化とは何か」 ([2014-05-10-1]),「#1840. スペイン語ベースのクレオール語が極端に少ないのはなぜか」 ([2014-05-11-1]), 「#1841. AAVE の起源と founder principle」 ([2014-05-12-1]) を含め,本ブログでは creole に関する話題を多く扱ってきた.特に中英語がクレオール語か否かに関して,「#1223. 中英語はクレオール語か?」 ([2012-09-01-1]),「#1249. 中英語はクレオール語か? (2)」 ([2012-09-27-1]),「#1250. 中英語はクレオール語か? (3)」 ([2012-09-28-1]),「#1251. 中英語=クレオール語説の背景」 ([2012-09-29-1]),「#1681. 中英語は "creole" ではなく "creoloid"」 ([2013-12-03-1]) の一連の記事を書いてきたが,つまるところこの問題はクレオール語とは何かという定義の問題に行き着く.
 ショダンソン (126--27) によれば,クレオール語は,言語学的に,すなわち共時的な言語構造の記述によって定義することはできず,歴史・社会によって規定されるべき対象である.

クレオール語とは、十七・十八世紀のヨーロッパの植民地支配のもとで、大規模農業の発展によって大量の奴隷の導入が不可欠となり、それによってヨーロッパ語の次世代への継承のあり方が変化した社会、たいていは島から成る社会のなかで生まれた言語のことである。クレオール化は、植民地支配者のことばのさまざまな周辺的変種を新しく来た奴隷が自己流で身につけることから生じた。この近似的習得がいわば「かけ合わされる」ことによって、中心的モデルとの接触がしだいに失われ、ひいてはこれら周辺的言語変種の自立化をひきおこしたのである。
 したがって、クレオール語は、クレオール語だけにあてはまり、しかもすべてのクレオール語にあてはまるような固有の構造的特徴をもっているわけではない。ヨーロッパの言語のあらゆる近似的変種(幼児ことば、学習者のいわゆる「中間言語」、簡易化された変種、など)は、クレオール語と似た再構造化の形式をそなえているけれども、それだからといって、これらの変種をクレオール語と呼ぶことはできない。クレオール語自体が、ヨーロッパ語の古い民衆的変種から生まれてきたことばであり、ヨーロッパ起源の多くの文法的・語彙的特徴をさまざまなかたちで保っているのだから、なおさらである。したがって、クレオール化をひきおこした社会史的・社会言語学的状況こそが、ほかにはみられない特徴なのであり、これがほんとうの意味でのクレオール語ならではの固有性をつくるのである。クレオール語が生まれなかった植民地がかなり多くあることだけでなく、(キューバやドミニカ共和国などのスペイン植民地のように)クレオール化がおこってもおかしくはなかったのに、(植民地社会の初期段階がながく続いたという)その土地特有の事情から、ヨーロッパ語がクレオール語を生み出すにいたらなかった植民地があることは、このことから明らかになる。


 ショダンソンは,クレオール語という用語は,歴史的に一度だけ生じた言語(群)を指す固有名詞に近いものであり,それに共通する言語的特徴によって抽象された普通名詞ではないと言っている.普通名詞として用いることは種々の誤解を招くおそれがある,と.この定義の上に立つとすれば,中英語はクレオール語かというような問いも,本質から見直されなければならないだろう.

 ・ ロベール・ショダンソン 著,糟谷 啓介・田中 克彦 訳 『クレオール語』 白水社〈文庫クセジュ〉,2000年.

Referrer (Inside): [2014-10-05-1]

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