hellog〜英語史ブログ     前の日     次の日     最新     2014-05     検索ページへ     ランダム表示    

hellog〜英語史ブログ / 2014-05-03

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

2014-05-03 Sat

#1832. ギリシア・アルファベットの文字の名称 (1) [greek][etruscan][latin][alphabet]

 まず,Greek alphabet の24字の一覧を掲げよう.意外と正確には知らない英語での発音も要チェック.セム語名称と意味については,田中 (22) とカルヴェ (116--19) を参照した.

 大文字小文字名称英語名称英語発音セム語名称意味
1Ααアルファalpha/ˈælfə/aleph"ox"
2Ββベータbeta/ˈbeɪtə, ˈbiːtə/bet"house"
3Γγガンマgamma/ˈgæmə/gaml"camel"
4Δδデルタdelta/ˈdɛltə/delt"door"
5Εεエプシロンepsilon/ˈɛpsəˌlɑn/?
6Ζζゼータzeta/ˈzeɪtə, ˈziːtə/zai"weapon"?
7Ηηエータeta/ˈeɪtə, ˈiːtə/hét"fence"?
8Θθテータtheta/ˈθeɪtə, ˈθiːtə/tét?
9Ιιイオタiota/aɪˈoʊtə/yod"hand"
10Κκカッパkappa/ˈkæpə/kaf"bend hand"
11Λλラムダlambda/ˈlæmdə/lamd"ox-goad"; "rod of teacher"
12Μμミューmu/mjuː/mém"water"
13Ννニューnu/njuː/nun"fish"; "serpent"
14Ξξクシーxi/(k)saɪ, (g)zaɪ/  
15Οοオミクロンomicron/ˈɑməˌkrɑn/‘ain"eye"
16Ππパイpi/paɪ/  
17Ρρローrho/roʊ/rosh"head"
18Σσ, ςシグマsigma/ˈsɪgmə/  
19Ττタウtau/taʊ/tau"mark"
20Υυユプシロンupsilon/ˈjuːpsəˌlɑn/wau"peg", "hook"
21Φφファイphi/faɪ/"mouth"
22Χχキーchi/kaɪ/  
23Ψψプシーpsi/(p)saɪ/  
24Ωωオメガomega/ˌoʊˈmeɪgə, ˌoʊˈmiːgə/  


 昨日の記事「#1831. アルファベットの子音文字の名称」 ([2014-05-02-1]) ほか文字の名称を扱った過去の記事(「#1830. Y の名称」 ([2014-05-01-1]) のリンク先を参照)では,文字の名称は,表音文字であるから当然のごとく対応する音価を含んでいるという前提で議論した.<a> は [eɪ] の音価を表わすのだからそのまま [eɪ] と呼ばれるし,<b> は [b] の音価を表わすのだから [b] を含んだ [biː] と呼ばれる.日本語の仮名も「あ」の文字名は「あ」であり,「い」の文字名は「い」である.文字のこのような呼び方,phonetic name といわれるこの方式は,ごく自然のことのように思われるが,ローマン・アルファベット (Roman alphabet) の祖先の上記ギリシア・アルファベット (Greek alphabet),さらに遡ったセム・アルファベット (Semitic alphabet) では,acrophonic name あるいは mnemonic name といわれる別の方式に従っていた.ギリシア語ではαは "alpha" と読み,βは "beta" と読んだが,これは "alpha" や "beta" という既存の単語を発音したものであり,確かに [a] と [b] は語頭音として含まれているが,英語における呼称とは方式が異なっている.
 いま既存の単語を発音したものと述べたが,厳密にいえば "alpha" や "beta" はギリシア語の単語ではない."alpha", "beta", "gamma" 等々の単語はセム語において意味をもつ単語であり,ギリシア・アルファベットの発生以前のセム・アルファベットの段階での呼称だった.ギリシア人は,自らにとって無意味な語で呼称しながら,セム・アルファベットの文字一式を受け入れたのである.逆にいえば,ギリシア・アルファベットの文字がギリシア語で無意味な呼称を与えられている事実こそが,そのセム・アルファベット起源を物語っている.
 acrophonic name 方式から phonetic name 方式への移行は,部分的にはギリシア語でも始まっていたが,本格的にはエトルリア語やラテン語がアルファベットをもつようになってからである.田中 (85) は,「ラテン・アルファベットにおける文字の新しい命名法は,古典ギリシアの方法に優る一大進歩」と評価している.

 ・ 田中 美輝夫 『英語アルファベット発達史 ―文字と音価―』 開文社,1970年.
 ・ ルイ=ジャン・カルヴェ 著,矢島 文夫 監訳,会津 洋・前島 和也 訳 『文字の世界史』 河出書房,1998年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

最終更新時間: 2024-11-26 08:10

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow