hellog〜英語史ブログ     前の日     次の日     最新     2014-01     検索ページへ     ランダム表示    

hellog〜英語史ブログ / 2014-01-12

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

2014-01-12 Sun

#1721. 2つの言語の類縁性とは何か? [wave_theory][family_tree][language_change][romancisation]

 2つの言語のあいだにみられる類縁性とか血縁関係とか言われるものは,いったい何を指しているのだろうか.2言語間の関係を把握するモデルとして伝統的に系統樹モデル (family_tree) と波状モデル (wave_theory) が提起されてきたが,この2つのモデルの関係自体が議論の対象とされており,いまだに両者を総合したモデルの模索が続いている.##369,371,999,1118,1236,1302,1303,1313,1314 ほか,比較的最近では「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]) や「#1397. 断続平衡モデル」 ([2013-02-22-1]) でこの問題に関連する話題を扱ってきたが,今回はイタリアの言語学者 Pisani の論文を参照し,再考してみよう.
 Pisani にとって,2つの言語のあいだの類縁性 (parenté) とは,共通している言語的要素の多さによって決まる.

. . . à chaque moment nous nous trouvons en présence d'une langue nouvelle constituée par la confluence et le mélange toujours divers d'éléments de provenance diverse dans les innombrables créations des individus parlants; et parenté linguistique n'est autre chose que la communauté d'éléments que l'on constate ainsi entre langue et langue. (14)


 これは単純な言い方のようだが,系統樹モデルにも波状モデルにもあえて言及しない,意図的な言い回しなのである.系統樹モデルに従えば,ある言語項目は,それに先立つ段階の対応する言語項目から歴史的に発展したものとされる.一方で,波状モデルに従えば,ある言語項目は,隣接する言語の対応する言語項目を借りたものであるとされる.いずれの場合にも,問題の言語項目は既存の対応する言語項目に何らかの意味で「似ている」には違いなく,どちらのモデルによる場合のほうがより「似ている」のかを一般的に決めることはできない.それならば,「似ている」度合いを測る上で,系統樹的な関係をより重視してよい理由もなければ,逆に波状的な関係を優遇してよい理由もないということになる.
 英語の場合を考えてみると,伝統的には系統樹モデルに従ってゲルマン語派に属するとされるが,特に語彙のロマンス語化が中英語期以降に激しかったので,波状モデルに従って,イタリック語派にも片足を踏み入れているとも言われる.つまり,この広く行き渡った見解は,原則としては系統樹モデルの考え方を優勢とみなして,第一義的にゲルマン語派に属すると唱え,その後に波状モデルの考え方を導入して,第二義的にイタリック的でもあると唱えているのである.英語の場合には,比較的豊富な文献が残っており,その歴史も借用の時間的な前後関係もある程度はわかっているので,上記の優先順位でとらえるのが自然であるという見方が現れやすいが,歴史的な情報がほとんど得られないある言語において,それと何らかの程度で似ている言語との類縁性を測る場合には,系統樹モデルを前提とすることもできないし,波状モデルを前提とすることもできない(「#371. 系統影響は必ずしも峻別できない」 ([2010-05-03-1]) を参照).目の前にあるのは,類似性を示す言語項目のみである.
 Pisani は,Schuchardt にしたがって親子関係と借用関係のあいだに意味ある区別を認めず,すべての言語は混合言語 (Mischsprachen) であるという立場に立って,2言語間の類縁性を定義しようとしたのである(関連して,「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]) も参照).2言語間の言語項目の類似性の理由は,親子関係かもしれないし借用関係かもしれないが,いずれにせよそれぞれの言語において,過去のある時点に何らかの言語的革新が生じ,互いが似通ってきたり離れてきたりしてきたに違いない.重要なのは言語的革新のみであり,Pisani は「それぞれが固有の展開をとげる個々別々の改新しか進化のなかには認めなかった」のである(ペロ,p. 89).

 ・ Pisani, Vittore. "Parenté linguistique." Lingua 3 (1952): 3--16.
 ・ ジャン・ペロ 著,高塚 洋太郎・内海 利朗・滝沢 隆幸・矢島 猷三 訳 『言語学』 白水社〈文庫クセジュ〉,1972年.

Referrer (Inside): [2014-01-16-1] [2014-01-13-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

最終更新時間: 2019-05-23 17:48

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow