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hellog〜英語史ブログ / 2014-01-08

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2014-01-08 Wed

#1717. dual-source の混成語 [pidgin][creole][creoloid][contact]

 2つの言語が混成するときには,大多数のピジン語やクレオール語がそうであるように,いずれかの言語の貢献率が顕著に高くなる.上層言語 (superstrate) や語彙供給言語 (lexifier) という用語,あるいは英語ベースのピジン語という表現が示すように,通常はいずれの言語が主であるかは明らかである.しかし,まれなケースでは,ほぼ半々に混じり合って,どちらが主たる言語が判然としない "dual-source" というべき混成語がある.「#1683. Pitkern」 ([2013-12-05-1]) は,非常にまれな dual-source creole の例として挙げられるだろう.ほかに,dual-source pidgin や dual-source creoloid とみなすことのできる言語が存在する (Trudgill, Sociolinguistics 182--83) .
 1917年までノルウェー最北部で交易の言語として話されていた Russenorsk は,dual-source pidgin の例と考えられる.Russenorsk はロシア語とノルウェー語の語彙要素がほぼ半々に混成した言語で,単純化した体系を有していた.この言語は,1917年にロシア革命によって両国の交易が断たれると廃れていったが,ロシア語とノルウェー語の話者のみならずサーミ語,フィンランド語,オランダ語,ドイツ語,英語の話者にも用いられ,lingua franca として機能していた.Russenorsk は,dual-source pidgin であることに加え,植民地という状況下ではなく交易のために発達したヨーロッパ語どうしのピジン語としても希有の存在である.Russenorsk は,例えば次のように用いられた (Trudgill, Glossary 114) .

Kak ju vil skaffom ja drikke te, davaj på sjib tvoja ligge ne jes på slipom.
'If you will eat and drink tea, please on ship your lie down and on sleep'


 一方,カナダに起源をもち,現在ではアメリカの North Dakota 北部の一部地域で話されている Michif (or Metsif or Métis) は,dual-source creoloid の例である(creoloid については「#1681. 中英語は "creole" ではなく "creoloid"」 ([2013-12-03-1]) を参照).もととなった2つの言語は,フランス語と北米先住民の Algonquian 語族の言語 Cree である.フランス語の "mixed" に相当する Michif の名前は,19世紀にカナダの毛皮交易を通じてフランス語を話す男性と Cree を話す女性とが混血して生じた民族の名前にもなっており,連邦政府による抑圧と抵抗の歴史を経てきた.Michif は言語的にはそれほど単純化しておらず,名詞句はフランス語の特徴である性の一致を示す一方,動詞句は Cree の複雑な形態論の特徴を保持している (Trudgill, Sociolinguistics 183--84) .話者数が少なく,存続が危ぶまれている先住民言語の1つである.
 Michif と同様に2言語が完全に融合している現象は language intertwining と呼ばれ,非常に稀だが,他にも Copper Island Aleut と呼ばれる言語がもう1つの例とされる (Trudgill, Glossary 28) .これは,Eskimo-Aleut 語族の Aleut とロシア語の混成語で,話者は2,000人を数えるほどといわれる.語彙と名詞句の形態論は大方 Aleut に由来するが,統語論と動詞句の形態論は大方ロシア語であるという intertwining ぶりを示す.

 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
 ・ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.

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