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英語話者や英語圏をモデル化する試みについては,model_of_englishes の各記事で話題に取り上げてきた.とりわけ古典的な分類は ENL, ESL, EFL と3区分するやり方だが,ここにもう1つ EBL (English as a Basal Language) を加えるべきだとの注目すべき見解がある.「#1713. 中米の英語圏,Bay Islands」 ([2014-01-04-1]) と「#1714. 中米の英語圏,Bluefields と Puerto Limon」 ([2014-01-05-1]) で参照した Lipski の論文を読んでいるときに出会った見解だ.Lipski (204) は,次のように述べている.
In offering a classification of societies where English is used, Moag suggests, in addition to the usual English as a native/second/foreign language, a new category: English as a Basal Language, defined for a society in which "English is the mother tongue of a minority group of a larger populace whose native tongue, often Spanish, is clearly the dominant language of the society as a whole." . . . . Moag's typology is undoubtedly useful and underlines the necessity for expanding the currently accepted typologies to accommodate such situations as the CAmE groups.
そこで,引用されている Moag の論文に当たってみた.Moag (14) によると,EBL として指示される地域には次のようなものがあるという.Argentina, Costa Rica (Jamaican Blacks), Dominican Republic (Samaná), Honduras (Coast and Bay Islands), Mexico (Mormon Colonístas), Nicaragua (Meskito Coast), Panama, San Andres (Columbia), St. Maarten (Netherlands Antilles) .
EBL の最大の特徴は,引用中に定義にもあるとおり,少数派としての英語母語使用にある.少数派の英語母語話者共同体が多数派のスペイン語母語話者共同体に隣接して暮らしているという構図だ.従来のモデルでは,このような社会言語学的状況におかれた英語変種を適切に位置づけることができなかった.というのは,従来の3区分では,英語は常に社会的に権威ある言語であるという前提が暗に含まれていたからだ.ENL では,当然ながら英語母語話者が多数派なので,英語の社会的な安定感は確保されている.ESL や EFL でも,国内的,国際的な lingua franca としての英語の役割は概ねポジティヴに評価されている(植民地主義への反感などによる例外はあるが,Moag (36) にあるように,多くの場合は一時的なものであると考えられる).ところが,上記の地域では,英語は少数派言語として多数派言語によって周縁に追いやられており,さらにはその母語話者によってすらネガティヴな評価を与えられているのである(母語話者によるネガティヴな評価は,その英語変種が標準的な変種というよりはクレオール化した変種であるという点にしばしば帰せられる).
英語が(母語話者によってすら)負の評価を与えられているという社会言語学的状況は,ぜひともモデルのなかに含める必要があるだろう.かくして,ENL, ESL, EFL, EBL の4区分という新モデルが提案されることとなった.Moag (12--13) では,この4種類を区別するのに26の細かな判断基準を設けている.ただし,Moag の論文は30年以上も前のものなので,「EBL 地域」の最新の言語事情が知りたいところではある.
・ Lipski, John M. "English-Spanish Contact in the United States and Central America: Sociolinguistic Mirror Images?" Focus on the Caribbean. Ed. M. Görlach and J. A. Holm. Amsterdam: Benjamins, 1986. 191--208.
・ Moag, Rodney. "English as a Foreign, Second, Native and Basal Language." New Englishes. Ed. John Pride. Rowley, Mass.: Newbury House, 1982. 11--50.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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