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再帰代名詞 (reflexive_pronoun) は英語史研究において,いくつかの観点から重要な論点となっている.例えば,形態論的には,なぜ「所有格 + self」のものと「目的格 + self」のものが混在しているのかは古典的な問題である(cf. 「#47. 所有格か目的格か:myself と himself」 ([2009-06-14-1]) や「#2376. myself, thyself における my- と thy-」 ([2015-10-29-1])).単純形と -self 形との競合や棲み分けという語法上の話題もある(cf. 「#2322. I have no money with me. の me」 ([2015-09-05-1])).また,統語意味論的な発達についても興味深い側面がある(cf. 「#2379. 再帰代名詞の外適応」 ([2015-11-01-1])).
非標準英語を見渡すと,さらにおもしろい事実がたくさんある.例えばイングランド南東部方言,アメリカ英語の口語,またその他の変種では hisself, theirselves などの形態が用いられることがあるが,この場合,再帰代名詞体系は「所有格 + self」で一貫するため,標準英語よりも規則的となる.逆に,オーストラリア英語の1変種やイングランド南東部方言では meself などが用いられることもある (Siemund 609--10) .
用法の点でも,変種によっては主語と同一指示対象を同じくする間接目的語として -self 形ではなく単純形が使われる変種がある.以下,Siemund (610) より.
・ I'm going to buy me biscuits and chocolates.(南アフリカの Cape Flats English)
・ He was looking to buy him a house for his family.(米国の Appalachian English)
次のように,直接目的語としての例も見つけることができる.これは古英語の語法の系統を引くものとも考え得る (Siemund 610) .
・ He has cut him.
・ He went to bathe him.
Irish English や Newfoundland English では,主格代名詞の代わりに再帰代名詞が用いられる次のような例がみられる (Siemund 610) .
・ I'm afraid himself [the master of the house] will be very angry when he hears about the accident to the mare.
・ Is herself [i.e. the mistress] at home yet Jenny?
このように標準英語から一歩外に出てみると,再帰代名詞の形態にも語法にもヴァリエーションがみられることがわかる.標準英語における形態と語法も,このように相対化して考えてみるとおもしろい.
・ Siemund, Peter. "Regional Varieties of English: Non-Standard Grammatical Features." Chapter 28 of The Oxford Handbook of English Grammar. Ed. Bas Aarts, Jill Bowie and Gergana Popova. Oxford: OUP, 2020. 604--29.
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最終更新時間: 2024-12-16 08:44
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