再帰代名詞の oneself の前半要素に,人称代名詞の所有格形が当てられているか (ex. myself, thyself),目的格形が当てられているか (ex. himself, themselves) の問題は,英語史で長らく議論されてきた問題の1つである.本ブログでも,「#47. 所有格か目的格か:myself と himself」 ([2009-06-14-1]),「#1851. 再帰代名詞 oneself の由来についての諸説」 ([2014-05-22-1]) で扱ってきた.
myself, thyself で所有格が用いられることについて,先の記事では self が名詞と解釈されたとする説とケルト語からの影響とする説を紹介した.もう1つ有力なのは,Mustanoja (146) などのとる与格形の母音弱化説である.初期中英語では,1,2人称でも self に前置されるのは3人称の場合と同様に与格形であり,me self, þe self などと表わされていた.この me や þe が後接辞 (proclitic) のように機能し始めると音声的に弱化し,e で表わされる母音が i へと変化した.かくして13世紀末頃に miself, þiself となるに及び,mi, þi は所有格として,self は名詞としてとして再分析され,これを1,2人称複数に応用した our selve(n), your selve(n) も現われるようになったという.後接辞の音声弱化は,biforen, bitwene における be- > bi- などにしばしば観察される,よくある現象である.
Keenan (344) も,次のように述べて Mustanoja の音声弱化説を支持している.
I claim these forms [= mi + self and þi + self] are just phonologically reduced forms of the procliticized dative pronouns me and þe. The correspondence of Old English long close e to Middle English short i is well attested . . . . Me and þe are the only dative pronouns that consist of a single light syllable. The others are either closed (him, us, hem or disyllabic or diphthongal (hire, eow). So it is natural that phonological reduction takes place first in 1st and 2nd sg. Once reduced we may identify them with possessive adjectives, surely the basis of the Pattern Generalization to your + self and our + self in 1st and 2nd pl (modern spelling) in the mid-1300s, which facilitates interpreting self as a N.
この説は,me と þi のみが開いた単音節であるという指摘において,説得力があるように思われる.また,人称代名詞のような語類において,歴史上,何度も繰り返し音声の弱化と強化が生じてきたことは,「#1198. ic → I」 ([2012-08-07-1]),「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]) でも見てきたとおりである.
・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
・ Keenan, Edward. "Explaining the Creation of Reflexive Pronouns in English." Studies in the History of the English Language: A Millennial Perspective. Ed. D. Minkova and R. Stockwell. Berlin/New York: Mouton de Gruyter, 2002. 325--54.
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