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言語変化にかかわる諸要因をモデル化する試みは様々になされてきたが,大づかみの見取り図を示してくれたものとして,Samuels のモデル (141) を紹介したい.筆者は,このモデルのすっきりとした見通しのよさに,いたく感銘を受けたものである.
言語体系 (system) は,文法 (grammar) ,音韻 (phonology) ,語彙 (lexis) の3部門から成り立っており,それぞれは互いに強く結びついている. 構造言語学でいうところの,"système où tout se tient" である.この体系は,3部門の堅いスクラムによりがっちりと組まれているものの,水も通さぬ密室というわけではない.体系は,それを基盤として現実に生み出される発話 (spoken chain) という現実の言語使用により,それ自身が常に変容にさらされている.その発話はまた,別の言語体系 (extrasystemic) からの圧力を受け,その圧力を間接的に文法,音韻,語彙へと伝え,体系を変容させる.さらに,文化や歴史のような種々の言語外的な (extralinguistic) な要因により,いっそう間接的にではあるが,中央の言語体系に影響を及ぼす.
Samuels の上の図は,非常にあらあらの図ではあるが,言語(変化)の1つの参照すべきモデルを提供している.ここには,生成文法で想定されている component や faculty という概念も含まれているし,ソシュールの langue と parole の対比も system と spoken chain の対比として表現されている.同心円の内部で作用している intrasystemic な要因と外部で作用している extrasystemic な要因とも図に反映されているし,以上のすべてを含めた intralinguistic な次元と,それ以外の extralinguistic な次元とも区別している.
この図は,dynamic ではあるが synchronic である.diachronic な軸を加えようとすれば,この図の面に直交して前後に伸びるチューブのようなイメージになるだろう.Samuels も当面そこまで踏み込むことはしていない.
言語変化の原因・要因については本ブログでも数々議論してきたが,とりわけ一般的な問題として取り上げた記事へのリンクを張っておきたい.
・ 「#442. 言語変化の原因」 ([2010-07-13-1])
・ 「#1476. Fennell による言語変化の原因」 ([2013-05-12-1])
・ 「#1466. Smith による言語変化の3段階と3機構」 ([2013-05-02-1])
・ 「#443. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か?」 ([2010-07-14-1])
・ 「#1582. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (2)」 ([2013-08-26-1])
・ 「#1584. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (3)」 ([2013-08-28-1])
・ 「#1123. 言語変化の原因と歴史言語学」 ([2012-05-24-1])
・ 「#1282. コセリウによる3種類の異なる言語変化の原因」 ([2012-10-30-1])
・ Samuels, M. L. Linguistic Evolution with Special Reference to English. London: CUP, 1972.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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