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英語の綴り字と発音の乖離についてはこれまでも何度か話題に取りあげたが,gaol /dʒeɪl/ もかなりの問題語である.<a> が後続する環境での <g> が [g] ではなく [dʒ] で発音されるということは,英語の語彙が50万あるといえど,他に思いつかない(もしあったら教えてください).一見すると理不尽なこの状態が生み出された背景には,綴り字と発音は相互に深い関係をもちながらも,本質的には別個の存在であるという事実がある.
gaol 「刑務所」は現代英語ではもっぱら British English で用いられ,しかも古めかしくて形式的な綴り字である.American English では,綴り字と発音の関係としてはより合理的な jail が公式に用いられるし,British English でも略式的にはこちらが用いられる.
この語の歴史をひもとくと,中英語では二つの系列の綴り字と発音が使われていたことがわかる.
(1) gayhol, gayle など <g> で始まる形態
(2) jaiole, jaile など <j> で始まる形態
では,この差は何に起因するか.答えは,この語はもともとフランス語からの借用語だが,借用元であるフランス語の方言が異なっていたということである.フランス語から英語へ単語が借用されるとき,Norman French か Central French のいずれか,あるいはその両方が出所として考えられる([2009-07-13-1], [2009-07-12-1]).
今回注目している語について言えば,上の (1) の系列はフランス語のノルマン方言から,(2) の系列は中央フランス語から英語へ入ってきたと考えられる.いずれも13世紀あたりの出来事であるが,当時は文字通り (1) は [g] で,(2) は [dʒ] で発音されていた.
その後しばらく両系列が併存していたが,発音としては (1) の系列の [g] はいつの頃からか廃れてしまった.しかし,発音と綴り字は別個の存在であるから,(1) の系列の <g> という綴り字だけはどういうわけか今の今まで生き残った.つまり,(1) の系列は,発音としては (2) の系列の [dʒ] に競り負けてしまったが,綴り字だけはかろうじて生き残ったということになる.だが,現代英語での使用状況を考えれば,綴り字も発音も (2) の系列にほぼ軍配があがりつつあると考えてよさそうである.
無念,ノルマンディ.パリにはかなわなかった.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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