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下宮忠雄(著)『歴史比較言語学入門』(開拓社,1999年)の第9章は「語源学」と題されている.『スタンダード英語語源辞典』の編者の1人でもあるし,思い入れの強い章かと想像される.下宮 (131) は第9章の冒頭でこう書いている.
言語学概論の1年間の授業が終わったあとで,何が印象に残っているか,何が面白かったかを試験問題の最後に問うと,語源と意味論という返事が圧倒的に多い.言語の研究は古代ギリシアに始まるが,そこでは,文法 (grammar) と語源 (etymology) が言語研究の2つの柱だった.
単語は一つ一つが歴史を持っている.語源 (etymology) は単語の本来の意味(これをギリシア語では etymon という)を探り,その歴史を記述する.したがって,意味論とも大いに関係をもっている.Cicero (キケロー)はギリシア語の etymologia を vēriloquium (vērum 「真実」,loquium 「語ること,ことば」)とラテン語に訳したが,修辞学者 Quintilianus [クウィンティリアーヌス]が etymologia にもどし,これが西欧諸国に伝わって今日にいたっている.grammar も etymology も2千年以上も前のギリシア人が創造した用語である.
「語源」を意味する語が,西洋語の歴史において変遷してきたというのは知らなかった.ギリシア語由来の etymology の響きは高尚で好きだが,キケローのラテン語 vēriloquium も味わいがある.いずれも英語本来語でいえば true word ほどである.そこに日本語あるいは漢語の「語源」に含まれる「みなもと」の意味要素が(少なくとも明示的には)含まれていない点がおもしろい.
ちなみに,ギリシア語由来ながらもラテン語に取り込まれていた ethymologia の単語は,古英語でも術語として受容されていたようで,OED によると Ælfric, Grammar (St. John's Oxford MS.) 293 に文証される.
Sum þæra [sc. divisions of the art of grammar] hatte ETHIMOLOGIA, þæ is namena ordfruma and gescead, hwi hi swa gehatene sind.
この時点ではあくまでラテン単語としての受容にすぎなかったとはいえ,英語文化において etymology は相当に長い歴史をもっているといえる.
(以下,後記:2025/01/12(Sun))
・ heltalk 「ラテン語で「語源」を意味する veriloquium もカッコいいですね」 (2025/01/10)
・ heldio 「#1322. word-lore 「語誌」っていいですよね」 (2025/01/11)
・ 下宮 忠雄 『歴史比較言語学入門』 開拓社,1999年.
・ 下宮 忠雄・金子 貞雄・家村 睦夫(編) 『スタンダード英語語源辞典』 大修館,1989年.
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最終更新時間: 2025-01-14 20:15
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