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hellog〜英語史ブログ / 2020-10-31

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2020-10-31 Sat

#4205. 國分功一郎(著)『中動態の世界 意志と責任の考古学』 [philosophy_of_language][voice][middle_voice][passive][review]

 國分功一郎(著)『中動態の世界 意志と責任の考古学』を読了した.「中動態」 (middle_voice) あるいは「中間態」とも呼ばれる,古くは印欧語族に広くみられた態 (voice) に関する哲学的考察である.
 現代人の多くには馴染みの薄い態であるが,古代ギリシア語では一般的によくみられ,現代の印欧諸語にも何らかの形で残滓が残っている.また,日本語の「自発」を表わす動詞の表現なども,中動態の一種といえる.本ブログでは「#232. 英語史の時代区分の歴史 (1)」 ([2009-12-15-1]),「#2185. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」 ([2015-04-21-1]),「#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成」 ([2018-06-10-1]) 等でその名称には触れたものの,まともに取り上げたことはなかった話題である.
 本書を分かりやすく要約することは至難の業だが,著者の最大の主張は,私たちが当たり前のようにみなしている能動態と受動態の対立を疑ってみようという呼びかけである.能動態と受動態の対立に慣れきっていると,中動態は,文字通り中間的な,立ち位置のよく分からないどっちつかずの存在であるようにみえる.しかし,それは対立の軸がずれているからではないか.対立させるべきは,能動態と受動態を合わせた1つの態と,中動態というもう1つの態なのではないか.中動態は何かの中間なのではなく,むしろ能動態と鋭く対立する態なのではないか.本書では,前半からこのような目から鱗の落ちるような議論が展開される.pp. 82--83 より著者の主張を引用しよう(以下では原文の圏点は太字で示している).

中動態を定義するためには,われわれがそのなかに浸かってしまって能動対受動というパースペクティヴを一度括弧に入れたうえで,かつて中動態が置かれていたパースペクティヴを復元しなければならないのだった.より具体的に言えば,その作業は,中動態をそれ単独としてではなくて,能動態との対立において定義することを意味する.
 するとここにもう一つ別の課題が現れる.
 中動態が能動態との対立においてその意味を確定していたのならば,まったく同じように,能動態もまた中動態との対立においてその意味を確定していたはずである.だとしたら,中動態と対立していたときの能動態を,現在のパースペクティヴにおける能動態と同一視してはならないことになる.中動態を定義するためには,中動態と対立していた能動態も定義し直さなければならないはずだ.
 われわれがそのなかに浸っているパースペクティヴを括弧に入れるとは,そのようなことを意味する.中動態を問うためには,われわれが無意識に採用している枠組みわれわれ自身を規定している諸条件を問わねばならないのだ.


 このように従来の態の見方を転倒させるような洞察が本書の最後まで続く.そのなかには,印欧語では動詞構文より前に名詞構文があったのではないかという仮説もあれば,中動態こそが原初の態だったのではないかという仮説もある.あらためて言語における態とは何なのかを問わずにはいられなくなる論考である.

 ・ 國分 功一郎 『中動態の世界 意志と責任の考古学』 医学書院,2017年.

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最終更新時間: 2021-03-28 05:25

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