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hellog〜英語史ブログ / 2020-02-04

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2020-02-04 Tue

#3935. アルファベット頭字語の浮き沈みの歴史 [initialism][abbreviation][shortening][punctuation]

 「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) などの記事で,現代語において隆盛を極めるアルファベット頭字語 (initialism) という略語法の話題を取り上げてきた.英語の例でいえば CEO, GDP, EU などがすぐに挙がるし,aka (= "also known as"), asap (= "as soon as possible"), imho (= "in my humble opinion") などもよく知られている.
 英語に関していえば,このような略語法 (abbreviation) の氾濫は確かに20世紀以降に顕著であり,すぐれて現代的な現象といってよいだろう(cf. 「#875. Bauer による現代英語の新語のソースのまとめ」 ([2011-09-19-1]),「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」 ([2011-09-22-1])).しかし,それ以前にも見られなかったわけではない.アルファベット文化圏を全体的に調べたわけではなが,少なくともヨーロッパ世界においては,アルファベット頭字語の使用そのものはローマ時代にも確認される.よく知られているのは,ラテン語で「ローマの元老院と人民」を意味する Senatus Populusque Romanus を頭字語化した SPQR である.ラテン語原文では各文字の後に点が打たれ,それによっても略語法であることが分かるが,これは後の英語における Prof., Dr. などの省略を表わすピリオドに連なるものといえる.
 アルファベット頭字語には,1文字で1語を表わせるという便利さがある.とりわけ漢字の利点をよく知っている私たちにとって,この表語文字特有の便利さは,たやすく理解できるだろう.古代ローマでも,この便利さが昂じて法律文書で多用されるようになったようだが,皮肉なことに,厳密さが要求される法律文書で,ときに複数の解釈を許すアルファベット頭字語はふさわしくないと判断され,結局は帝国により使用が禁止されることになった.この影響が持続したのか,その後10世紀までアルファベット頭字語は冬の時代を迎えることになった.
 しかし,10世紀になると復活の兆しを示しだした.とりわけ11--12世紀には,頭文字を用いた記憶術の発展に伴い,聖書に関係する用語や固有人名などがアルファベット頭字語で表現されるようになった.この慣習は,中世後期を通じて続いたが,初期刊本時代の終わりに至って再び衰退していった.そしてその後,先に述べた通り,20世紀に再び復活・拡大してきたというのが歴史の流れである.このように,アルファベット頭字語は何度も浮き沈みの歴史を経てきたのだ.
 以上は,Saenger (64--65) の解説に依拠した.なお,Saenger はアルファベット頭字語のことを "suspension abbreviation" と呼んでいる.

 ・ Saenger, P. Space Between Words: The Origins of Silent Reading. Stanford, CA: Stanford UP, 1997.

Referrer (Inside): [2020-08-11-1]

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最終更新時間: 2024-10-26 09:48

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