01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
「#3740. ケルト諸語からの借用語」 ([2019-07-24-1]) を受け,より専門的な語源学の知見を参照しながら英語へのケルト借用語について考えておきたい.主として参照するのは,Durkin の第5章 "Old English in Contact with Celtic" (76--95) である.
ケルト諸語から英語への借用語が少ないという事実は疑いようがないが,ケルト借用語とされている個々の単語については,語源や語史の詳細が必ずしも明らかになっていないものも多い.先の記事で挙げたような,一般の英語史書でしばしば取り上げられる一連の単語は比較的「手堅い」ものが多いが,その中にももしかすると怪しいものがあるかもしれない.本当にケルト語からの借用語なのかという本質的な問題から,どの時代に借用されたのか,あるいはいずれのケルト語から入ってきたのかといった問題まで,様々だ.
背景には,英語の歴史とケルト諸語の語源の両方に詳しい専門家が少ないという現実的な事情もある.また,ケルト語源学やケルト語比較言語学そのものも,発展の余地をおおいに残しているという側面もある.たとえば,河川名などの地名に関して「#1188. イングランドの河川名 Thames, Humber, Stour」 ([2012-07-28-1]) でみたように,ケルト語源を疑う見解もあるのだ.
さらに,時期の特定の問題も難しい.英語話者とケルト諸語の話者との接触は,前者が大陸にいた時代から現代に至るまで,ある意味では途切れることなく続いている.問題の語が,大陸時代にゲルマン語に借用されたケルト単語なのか,アングロサクソン人のブリテン島への渡来の折に入ってきたものなのか,その後の中世から近代にかけてのある時点において流入したものなのか,判然としないケースもある.
いずれのケルト語から入ってきたかという問題については,その特定に際して,「#778. P-Celtic と Q-Celtic」 ([2011-06-14-1]) で触れた音韻的な特徴がおおいに参考になる.しかし,この音韻差の発達は紀元1千年紀中に比較的急速に起こったとされ,ちょうどアングロサクソン人の渡来と前後する時期なので,語源の特定にも微妙な問題を投げかける.
今後ケルト言語学が発展していけば,上記の問題にも答えられる日が来るのだろう.今後の見通しについては,Durkin (80--81) の所見を参考にされたい.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
最終更新時間: 2024-10-26 09:48
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow