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印欧祖語の分裂の時期は不詳だが,一説によると紀元前4000?3000年以降のことと考えられている(「#637. クルガン文化と印欧祖語」 ([2011-01-24-1]),「#1117. 印欧祖語の故地は Anatolia か?」 ([2012-05-18-1]),「#1129. 印欧祖語の分岐は紀元前5800--7800年?」 ([2012-05-30-1]) を参照).ある言語が分裂するということは,民族が分裂して地理的に四散することと考えてよい.すると,言語の分裂の背景には民族移動があるということであり,民族移動の動機づけが問題となってくる.
だが,たいてい民族移動というものは,その動機づけが何だったかについて考古学的にも歴史学的にも諸説紛々たるもので,例えば比較的新しい時代に起こったゲルマン民族の大移動にしても,様々な議論がある.では,印欧祖語を話していた民族(=クルガン文化の担い手?)が,いかなる理由で故地とされる場所から移動していったのか.これについても諸説あるが,気候の変化という観点から迫る考察がある.現在を含む完新世は1万2千年ほど前に始まり,後氷期に相当する.先立つ氷期に比べれば温かいということになるが,細かく見れば後氷期の内部でも平均気温の上下はあり,数百年単位で温暖な時期と寒冷な時期が繰り返されてきた.紀元前3千年頃に数百年続く温暖期があり,その後乾燥・寒冷化して紀元500年頃まで続く.さらにその後,紀元9--11世紀にやや温暖な時期を経るが,全体としては寒冷化しつつ現在に至る.
一般的には,温暖期には人々は涼を求めて高緯度地帯に移動し,寒冷期には暖を求めて低緯度地帯へ向かうもののようである.印欧語系の人々の移動でみると,紀元前3千年以降に気候が寒冷化するにしたがって,南下が始まったと考えられる.これは世界的な傾向であり,ヨーロッパのみならず,北アメリカや東アジアでも見られる(この一環として大陸から日本への流入もあった).また,同じ頃,サハラ,中央アジア,オーストラリアでは乾燥化が起こり,より湿潤な周辺地域への移動が確認される. *
もっとも,気候変化は民族移動の動機づけの1要因にすぎない.例えば,紀元前1千年紀のポリネシア人やマダガスカル人の海上移動は,気候変化との関連が薄い.だが,上に述べたように,紀元9--11世紀に短期間の温暖期のピークがあり,これは北ヨーロッパでヴァイキングの移動が活発化した時期と一致することを付言しておこう.
以上,『クロニック世界全史』の pp. 34--35 の「気候・文明・人口」と題する記事を参考にした.
・ 樺山 紘一,木村靖二,窪添 慶文,湯川 武(編) 『クロニック世界全史』 講談社,1994年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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