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2月1日の読売新聞夕刊11面に「若者は1字下げない」と題する記事が掲載されていた.筆者も大学で学生が書く長めの日本語文章を読む機会が多いが,この「1字下げない」現象には戸惑っている.課題レポート,試験の記述解答,入試の願書に至るまで,段落を1字下げずに書くということが,普通になってきている.
専門家によると,若者が1字下げを行なわなくなってきているのは,普段書き慣れている SNS でそのような慣習がなく,まとまった文章を書く際にも段落という単位を意識する機会が減っているからだろうという.
これを問題として指摘するにあたって,いくつかの角度がありそうだ.思いつくのは,(1) 1字下げしないという慣習を無視している(あるいは知らない)ということ,(2) 友人相手の SNS の文章と,ある程度の正式さとまとまりが必要とされる種類の文章の区別ができていないこと,(3) 文章を構成するという感覚がなさそうであること,辺りだろうか.
(1) は「小学校の作文でしっかり習っていたはずなのに,それをすっかり忘れている,けしからん」という批判である.個人的にはこの批判に加担するし,1字下げは日本社会の常識の1つだと思っている.しかし,規則なのだからとにかく守れ,と述べて済ませるだけでは,言語を論じる者として大人げない気もする.実際,段落の最初の1字下げがどこまで日本語の文章における公式な「規則」なのかは,イマイチよく分からない.学習指導要領では,改行については小学3,4年生の国語で学ぶことになっているが,1字下げについては,指導実態としては教えているものの,「必要性の評価が学術的に定まっていない」ために明示はされていないという.国語教科書の歴史でみると,戦前に1字下げされていない例もあったようだ.そもそも日本語書記における1字下げは,西洋の文章の翻訳に伴って発展し,その慣習が教科書の文章などにも取り込まれて一般化したもののようで,金科玉条の規則というよりは,あくまで慣習やマナーといった位置づけと見ておくのがよさそうだ.とすると,「守らざれば即ち非」と断じるのも難しくなる.
(2) と (3) は繋がっていると思われるが,慣習を守る守らないだけの問題ではなく,長いまとまった種類の文章を書く機会がないという,一種の書記経験の貧困さの問題のことである.1字下げをしない→その必要性や意義を認識していない→段落構成のある文章を普段書いていない→そのような文章を書く機会がそもそもない,という疑いが生じる.
SNS の1字下げをしない文章の書き方が悪いというよりは,1字下げすべき類いの文章を書く機会が激減しているという状況がある,と認識すると,問題は別次元のものになっていきそうだ.
畢竟,句読法 (punctuation) も時間とともに変化するものである.しかし,その変化も,実際的意義と歴史的慣習とのせめぎ合いを通じて進行していくはずのものであって,それゆえに最も大事なことは,保守派にせよ革新派にせよこのような話題に関心をもち,議論していくことだろう.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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