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「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1]) で少々触れたように,英語史上,フランス語に比して他の3つのロマンス諸語からの語彙借用は影が薄い.イタリア語,スペイン語,ポルトガル語の各言語からの借用語の例は,主に近代以降について「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]) や「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]) で触れた.中英語にも,およそフランス語経由ではあるが,イタリア語やポルトガル語に起源をもつ語の借用があった (「#2329. 中英語の借用元言語」 ([2015-09-12-1])) .
Culpeper and Clapham (210) は,比較的マイナーなこれらのロマンス諸語からの語彙借用の歴史について,OED による語彙統計をもとに,次のように端的にまとめている.
The effect of Italian borrowing can be seen from the 15th century onwards. Italy was, and still is, famous for style in architecture and dress. It was also perceived an authority in matters to do with etiquette. Travellers to Italy --- often young sons dispatched to acquire some manners --- inevitably brought back Italian words. Italian borrowing is strongest in the 18th century (1.7% of recorded vocabulary), and is mostly related to musical terminology. Spanish and Portuguese borrowing commences in the 16th century, reflecting warfare, commerce, and colonisation, but at no point exceeds 1% of vocabulary recorded within a particular period.
まず,イタリア語からの借用語がある程度著しくなるのは,15世紀からである.「#1530. イングランド紙幣に表記されている Compa」 ([2013-07-05-1]) で言及したように,13世紀後半以降,16世紀まで,イタリアの先進的な商業・金融はイングランド経済に大きな影響を与えてきた.それが言語的余波となって顕われてきたのが,15世紀辺りからと解釈することができる.その後,イタリア借用語は18世紀の音楽用語の流入によってピークを迎えた.
一方,スペイン語とポルトガル語は,イタリア語よりもさらに目立たず,そのなかで比較的著しいといえるのは16世紀に限定される.当時,海洋国家として名を馳せた両雄の言語的な現われといえるだろう.
各言語からの語彙借用の様子は,統計的にみれば以上の通りだが,質的な違いを要約すると次の通りになる (Strang 124--26) .
(1) イタリア人は世界を開拓したり植民したりする冒険者ではなく,あくまでヨーロッパ内の旅人であった.したがって,イタリア語が提供した語彙も,ヨーロッパ的なものに限定されるといってよい.ルネサンスの発祥地ということもあり,芸術,音楽,文学,思想の分野の語彙を多く提供したことはいうまでもないが,文物を通してというよりは広い意味での旅人の口を経由して,それらの語彙が英語へ流入したとみるべきだろう.語形としては,あたかもフランス語を経由したような形態を取っていることが多い.
(2) 一方,スペイン語の流入は,イングランド女王 Mary とスペイン王 Philip II の結婚による両国の密な関係に負うところが多く,スペイン本土のみならず,新大陸に由来する語彙の少なくないことも特徴である.
(3) スペイン語以上に世界的な借用語を提供したのは,15--16世紀に航海術を発達させ,世界へと展開したポルトガルの言語である.ポルトガル語は,新大陸のみならず,アフリカやアジアからも多くの語彙をヨーロッパに持ち帰り,それが結果として英語にもたらされた.
具体的な借用語の例は,「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]) を参照されたい.
・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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