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hellog〜英語史ブログ / 2014-09-24

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2014-09-24 Wed

#1976. 会話的含意とその他の様々な含意 [pragmatics][implicature][cooperative_principle]

 語用論で話題とされる含意 (implicature) には様々なものがある.最もよく知られているのは Grice 流の会話的含意 (conversational implicature) だが,その位置づけは,他の種類の含意との関係において理解する必要がある.様々な種類の含意は,Levinson に拠った春木 (45) が以下のように整理している.

System of Implicature

 まず,発話 (utterance) は,意味論的に解釈される文字通りの意味 (what is said) と,語用論的に解釈される含意 (implicature) とに分かれる.含意は,大きく慣習的含意 (conventional implicature) とそれ以外に分かれる.Grice 以降,慣習的含意の有無については議論があるが,but のもつ対比や逆接の意味などが慣習的含意の典型とされる.John is rich but he is modest. という文における butand に置き換えても,命題の真理条件は影響を受けない.しかし,butand とでは文の意味は直感的に明らかに異なる.Grice は,but の使用によって生じる対比や逆接の意味は,but が語としてもっている(記号化している)慣習的含意によるものだと考えた.協調の原則 (cooperative principle) や会話の公準 (maxims of conversation) を経由しない,語に埋め込まれた含意である
 次に,非慣習的含意の下に,有名な会話的含意 (conversational implicature) が位置づけられるが,それと並んであまり知られていない非会話的含意 (non-conversational implicature) なるものがある.これは,Grice の協調の原則と会話の公準からは漏れるが,その他に認められる種々の公準 ("Be polite" であるとか,"aesthetic, social, or moral in character" などの特徴をもつもの)による含意のことである.
 さて,会話的含意の下には,特定の会話内で単発に生じる特殊化された会話的含意 (particularlized conversational implicature) と,より広く頻繁に観察される一般化された会話的含意 (generalized conversational implicature) が区別される.例えば,夫婦喧嘩で妻が I'm very happy to have married you. と言えば皮肉となるが,幸せな結婚10周年のお祝いでは皮肉とならない.これは,場合によって皮肉の含意が生まれるという意味で,一般化されたものではなく特殊化された会話的含意の例である.一方,I ate some of the apples on the table. などの数量表現を含む文において典型的に,一般化された会話的含意が観察される.この文は,論理的にはテーブルにあるすべてのリンゴを食べた場合にも発することができる.しかし,その場合,嘘とはいわずとも妙な感じがするのは,"some" というからには "all" ではないはずだという一般化された会話的含意が汲み取られるからである.このような数量表現に関する一般化された会話的含意は,特に尺度含意 (scalar implicature) と呼ばれる.
 上記のように位置づけられる会話的含意には,7つの興味深い特性があるといわれる.

 (1) 取り消し可能性 (cancellability) .例えば,I ate some of the apples on the table. の直後に,In fact, I ate all of them. と付け加えて,上述の尺度含意を打ち消すことができる.
 (2) 発話内容からの分離不可能性 (non-detachability) .テストで0点を取った Jack に対して,You are a genius. は皮肉となるが,同じ文脈である限りにおいて You must win a Nobel prize. などの類義の文でもやはり皮肉となる.
 (3) 計算可能性 (calculability) .会話的含意は推論・計算であるから,時間や空間を越えて適用される.状況が同じであれば,推論・計算の過程も同じはずである.
 (4) 非慣習性 (non-conventionality) .会話的含意は,語に慣習的にエンコードされているのではなく,あくまで推論によって導かれるものである.
 (5) 伝達後明示可能性 (reinforceability) .The soup is warm. は尺度含意により "not hot" を含意するが,その後に付け加えて The soup is warm, not hot. としても冗長さは感じられない.含意の内容を後から実際に発話によって示すことが許容されるのである.
 (6) 普遍性 (universality) .言語を越えて,おそらく普遍的である.
 (7) 完全特定化不可能性 (not fully determinable) .推論・計算により生まれる含意なので,一意に特定することはできない.転義表現など,聴者だけでなく話者ですら含意を特定することができないケースもありうる.

 ・ 春木 茂宏 「会話における推論」 『語用論』(中島信夫(編)) 朝倉書店,2012年,33--52頁.

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