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英語でも日本語でも,言語における規範主義 (prescriptivism) は健在であり,それに基づいた文法書や語法書が書店の一角を賑わせている.テレビや新聞などのメディアでも,正用と誤用の解説は人気コーナーであり,視聴者・読者からの賛否の投稿もしばしば目にする.これらはまとめて "linguistic complaint literature" (Millar 106) と呼ばれているが,特にイギリスでは数世紀をかけて培われてきたメディアの伝統的なジャンルといってよい.また,学校の語学教育では規範主義は幾分緩んできたとも言われるが,マルかバツかを要求する試験を前提とする教育である限り,基本的には規範の威信は絶大である.近代言語学は,従来の規範的な言語観から脱し,記述的な言語観を手に入れることにより発展してきた.その意味では,言語学と規範主義言語観とは真っ向から対立するものであり,言語学者と規範主義的な語学教師・評論家もまた鋭く対立する敵対者同士である.このことは,「#747. 記述と規範」 ([2011-05-14-1]) で見たように Martinet も明言していた.
しかし,英語史や歴史言語学を研究して言語変化を探っていると,その原因が規範主義的な言語観に基づくものだったり,あるいはそれへの反発の結果だったりすることがある.例えば,最近の記事 (##1920,1921,1922) で,近代英語以降の singular they の衰退と復活を巡る動きについて見たが,その衰退も復活も,人々の言語の規範に対する態度が時代によって移り変わってきた様子と連動していることがわかる.そうすると,言語学者(特に歴史社会言語学者)にとって,規範主義的言語観とは,決して敵対するものではなく,むしろその性質を追究すべきひとかどの研究対象ということにならないだろうか.
この見方について,Millar (105) は,Verbal Hygiene を著わした Cameron の意見に賛意を表しながら,次のように述べている.
Cameron (1995) makes the persuasive point that the difference between description and prescription may not be as great as linguists think: after all, a description by its nature encourages a sense of what is 'normal' within a system. More importantly, she suggests that it is a good idea for linguistics to listen to what people interested in language have to say about it, primarily so that we can understand why they hold views which, from an insiders' viewpoint, appear ill-conceived or even meaningless.
私も規範主義言語観に対するこのような見方に賛成である.言語学者も,この話題に立ち合う必要があると考える.ただし,言語学者がどこまで実際の個々の言語問題に介入すべきなのか,してよいのか,できるのかは,難しい問題である.Cameron は言語問題を一歩引いたところから静観している風であり,Crystal はやや介入型のように感じる.言語学者は規範主義的言語観をどう見るべきか――これは言語学者の間で真面目に論じてもよい話題ではないだろうか.
・ Millar, Robert McColl. English Historical Sociolinguistics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2012.
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最終更新時間: 2024-09-24 08:28
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