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hellog〜英語史ブログ / 2013-12-10

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2013-12-10 Tue

#1688. Tok Pisin [pidgin][creole][lingua_franca][tok_pisin][link]

 英語ベースのピジン語 (pidgin) としておそらく最も知られているのは Tok Pisin だろう.多言語国家 Papua New Guinea の事実上の国家語として用いられており,lingua_franca として機能している.新聞,ラジオ,テレビ,辞書,文法,聖書などの言語として採用されており,話者により積極的な社会言語学的評価を付されている.第2言語として400万人により話されており,第1言語としても5万人の話者がいる.後者の母語話者の存在は,Tok Pisin がクレオール語化 (creolisation) を始めていることの現れでもある.
 New Guinea は,Greenland に次いで世界で2番目に大きな島である.政治的には西半分のインドネシア領 Irian Jaya と東半分の Papua New Guinea (PNG) に分かれる.島全体としてみれば使用されている言語は1,000に及び,PNG だけに限っても,「#401. 言語多様性の最も高い地域」 ([2010-06-02-1]) で見たとおり,830言語を数える.言語多様性指数としては,世界最高値を示す国である.この超多言語地域が lingua franca を持ち始める契機となったのは,19世紀にヨーロッパの植民地主義列が介入したときである.Samoa, Vanuatu, Queensland など,オセアニア地域のプランテーション契約労働者が各地を往来したこと,孤立していた言語共同体が孤立を維持できなくなったことが,lingua franca の発生を促した.結果として,PNG の土着語から発生したピジン語 Hiri Motu や,英語ベースのピジン語 Tok Pisin が広がっていった.
 オセアニア地域のピジン語の発達については不明の点も多いが,Australia 経由で広がった系列 (ex. Australian Pidgin English, Roper river Creole, Cape York Creole) と,Vanuatu (the New Hebrides), the Solomon Islands, Queensland, Fiji を経て Papua や New Guinea へ広がった系列が区別される.19世紀,この地域では,New England の捕鯨,メラネシアのビャクダン交易,中国の食材としてのナマコ採取,Queensland や Fiji での綿花やサトウキビのプランテーション,Samoa でのコプラのプランテーション,トレス海峡 (the Torres Strait) での真珠採取などが,経済と労働の推進力となっていた.初期の Tok Pisin は,これらの経済活動を通じて Bislama (「#1536. 国語でありながら学校での使用が禁止されている Bislama」 ([2013-07-11-1]) を参照), Solomon Islands Pidgin, Torres Straits Creole などと接した帰国労働者によって PNG に広まっていったとされる.
 上述のように,Tok Pisin は英語ベースの(すわなち英語を lexifier とする)ピジン語である.標準英語と比べれば,音韻,文法,語彙などあらゆる部門において確かに簡略化されているが,一方で独特な規則をもつ.言語体系としては,英語とは異なる言語といって差し支えないだろう.Gramley (239--40) に掲載されている Tok Pisin で書かれた文章のサンプルについて,標準英語の対訳つきで見やすく作り直したものをこちらのPDFで用意した.その他,Tok Pisin については以下のサイトも参照.

 ・ 「#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧」 ([2010-08-03-1])
 ・ Ethnologue: Tok Pisin
 ・ Tok Pisin -- Pidgin / English Dictionary
 ・ Tok Pisin Translation, Resources, and Discussion

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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