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hellog〜英語史ブログ / 2011-02-02

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2011-02-02 Wed

#646. billion の値 [numeral][bre]

 どの言語でも,数詞や数詞を含む句は頻度が高く,発音や語法において不規則であることが多い.日本語では「ひとり」「ふたり」に対して「さんにん」,「しちじ」(七時)に対して「ななかい」(七階),「ようか」(八日)や「はたち」(二十歳)など,例は尽きない.
 英語での形態的な問題を指摘すると,通常 hundred, thousand, milliontwo hundred, three thousand, four million のように -s のつかない単複同形だが,概数表現としては hundreds of students, thousands of fans, millions of years のように -s を伴う.
 さて,million の上の単位である billion も上記のように振る舞うが,こちらは指す値に注意する必要がある.billion は一般的には「10億」 ( = one thousand million ) を意味するが,古風なイギリス英語では「1兆」 ( = one million million ) を意味した.同様に,次の単位である trillion は一般的には「1兆」だが,古風なイギリス英語では「100京」である.さらに上の単位である quadrillion, quintillion などでも,現代英語と古風なイギリス英語の指示する値に差が見られる.つまるところ,現代語法では「100万」を基準として次々に1000倍してゆく計算であるのに対して,古風なイギリス語法では「100万」のべき乗で計算するということである.
 billion = 「1兆」の対応関係は古風なイギリス語法であるとはいっても,20世紀半ばまで実際に用いられていたので注意を要する.billion は17世紀の終わりころにフランス語から借用された.フランス語の原義は100万の2乗を表わす「1兆」であり,それが英語やドイツ語に入った.ところが,後にフランスやアメリカは3桁ずつ数字を区切る慣習を発達させ,100万の1000倍を表わす「10億」の意味を採用することになる.ここに「英独1兆」対「米仏10億」という対立が生じることになった.しかし,話しはここで終わらない.イギリス英語は20世紀半ばからアメリカ式の「10億」の意味を一般化させ,フランス語は1949年以降もとの「1兆」に回帰した.このような複雑な過程を経て,現在は「英米10億」対「仏独1兆」という図式に落ち着いている.
 イギリス英語では,上記のように比較的近年まで billion が「1兆」を指していたこともあり,現在でも意味の曖昧さを排除すべき文脈では billion の使用は避けるべきともされる.Quirk et al. (6.63n [p. 394]) の説明を引用する.

One thousand million (1,000,000,000) is called one billion in the American system of numeration. In the UK, billion has traditionally been used for 1,000,000,000,000 (1012), corresponding to one trillion in the US. However, the American usage where billion = 109 is now often used also in the UK by people who are ignorant of the double meaning of the word. It is not used by scientists, engineers, and mathematicians according to the British Standards Institution, which recommends that the use of billion, together with the equally ambiguous trillion (1012 or 1015) and quadrillion (1015 or 1018), should be avoided.


 引用の最後の "together with . . ." 句は,現代英語語法と古風なイギリス語法との対比という文脈ということであれば,"together with the equally ambiguous trillion (1012 or 1018) and quadrillion (1015 or 1024)" (赤字引用者)となるべきところではないだろうか.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

Referrer (Inside): [2011-02-03-1]

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最終更新時間: 2019-04-29 09:08

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