01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
英語の歴史がその話者集団の歴史を色濃く反映しているのと同じように,英語の人名の歴史もまた,その持ち主の集団の歴史を映し出す.人名や地名の語形・語源研究は固有名詞学 (onomastics) と呼ばれるが,今回は特に人名の onomastics に関する充実したサイトを紹介したい.英語人名だけでなく世界中の人名の情報が詰まったサイトである.
サイトは大きく first name についての Behind the Name: The Etymology and History of First Names と surname についての Behind the Name: The Etymology and History of Surnames に分かれており,名前の概要,姓名の検索,近年の人気の名前,歴代イングランド君主の名前など,様々な情報が収められている.
- Behind the Name: The Etymology and History of First Names: 「名」のサイト.
- General Information of English Names: まずこれを読んで概要を.
- List of English First Names and Meanings: 「名」のブラウズと検索.
- Most Popular First Names: 国別,年代別の「名」のランキング.
- Kings and Queens of England Chronologically: 歴代イングランド君主の「名」の一覧.
- Behind the Name: The Etymology and History of Surnames 「姓」のサイト.
- List of English Surnames and Origins: 「姓」のブラウズと検索.
- Most Popular Surnames: 国別,年代別の「姓」のランキング.
特に,こちらの概要ページの "History" は必読である.記述をまとめると以下のようになる.
・ 古英語期の名前は原則として,広くはゲルマン語語彙,狭くは古英語語彙に由来するものだった.これは,古英語語彙の97%がゲルマン系の本来語であることに対応する([2010-05-16-1]の記事「語彙数とゲルマン語彙比率で古英語と現代英語の語彙を比較する」を参照).通常2要素から成り (dithematic) ,戦いに関する語彙が多く用いられた.
・ 8世紀後半より,古ノルド語名が英語に入り始めた.-son をつける父称 (patronym) の習慣は古ノルド語に由来する.
・ 1066年のノルマン・コンクェスト後の数十年の間に大部分の古英語名が Richard, William, Henry などの Norman French 名に置き換えられた.非常に多数が現代英語に継承されている.現代に残る古英語名は Edward, Alfred, Audrey, Edith など少数である.
・ いくつかの古英語名はまた大陸ゲルマン語の同根語に置き換えられた.Robert, Roger など.
・ 13世紀以降,教会の推奨で John, Matthew, Mary, Peter, Luke, Stephen, Paul, Mark などの Christian name がつけられるようになる.洗礼名は聖人の名前に基づくものであり,古代ギリシア語,ラテン語,ヘブライ語起源が多かった.
・ 16世紀,Henry VIII による宗教改革によりカトリック的な聖人の名前は流行らなくなり,代わって聖書に基づく名前が多くつけられるようになった.
・ 特に,17世紀の清教徒たちは Adam, Eve, Daniel, David, Isaac, Michael, Noah, Rachel, Rebecca などの旧約聖書に基づく名前や,Prudence, Charity, Constance, Temperance などの美徳を表わす名詞を採用した.後者の多くは18世紀に廃れたが,現在 Hope, Faith, Joy などが残っている.
・ 17世紀より姓を名として用いる習慣が現われた.この習慣はイギリスよりもアメリカで強い.
・ 18, 19世紀には古い名前が復活し,Miranda, Jessica, Wendy などの文学的名前や Hector, Diana, Arthur などの神話的名前が導入された.
・ Victoria 朝には Ruby など通常の語彙を用いる名前が導入された.
・ 現代の名前は創作名,既存の名前の異綴り (Sidney に代わって Sydney など),他言語からの借用語などにも彩られている.
英語の名前に関しては,[2010-12-08-1]の記事「last name はいつから義務的になったか」や[2009-09-14-1]の記事「オランダ・フラマン語から借用した指小辞 -kin」も参照.
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
最終更新時間: 2024-10-26 09:48
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow