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孟子の性善説と荀子の性悪説は性論の根本的な問題を提供しているが,言語学の立場からすると,おそるおそるながら性悪説に軍配が上がるのではないかと考えている.
これには,最近,主に名詞から形容詞をつくる接尾辞 -ish の通時的研究をしたことが関係している.その研究の詳細は割愛するが,[2009-09-07-1]の記事で取り上げた -ish の機能的拡大を,OED により通時的に跡づけようとした研究である.本来 -ish は,国名・地名を表わす名詞からその形容詞を作り出す派生接尾辞として,意味的には中立だった ( ex. Angle > English; Kent > Kentish ) .しかし,-ish の接続する対象が人間や動物やを表わす名詞へ拡大するに及んで,徐々に軽蔑的な意味を帯びるようになった ( ex. child > childish; dog > doggish ) .結論として,-ish は基体が表わす存在のもつ悪い特徴を引き出して,軽蔑的な connotation をもつ形容詞を派生させる機能を発展させてきたと締めくくった.その研究では semantic prosody や semantic preference という用語こそ使わなかったが,関連する話題であることは明らかである.最近の semantic prosody の議論では語以上の単位が前提となっているようだが,-ish という語より小さい形態素にも応用できるものと思われる.
-ish の機能的拡大は,基体の表わす存在の悪い特徴を引き出すという点に多くを負っており,性悪説に基づいていると言いたいわけだが,-ish の1例のみを証拠に挙げて英語(あるいは言語一般)は性悪説に基づいていると主張するのは,もちろん性急である.しかし,少なくとも英語の意味論を見渡すと,-ish 以外にも英語の negative 志向を示唆する諸例が見つけられる.
例えば,[2010-08-13-1]の記事で見たように,意味変化の分類に意味の良化 ( amelioration ) と悪化 ( pejoration ) が区別されるが,英語史からの事例としては悪化の例のほうが多い ([2010-09-14-1]) .
また,semantic prosody を論じた[2011-03-04-1], [2011-03-02-1]の記事で述べたように,utterly, happen, set in など,unfavourable な音色を帯びる例のほうが逆の例よりも多い.Partington は "It may be the case, one suspects, that humans have a greater tendency or need to communicate to each other the 'bad things' which happen in life and this could be reflected in texts" (133) と述べているし,Louw も同じ趣旨で "there seem, prima facie, to be more 'bad' prosodies than 'good' ones" (qtd in Partington, p. 133 as from Louw, p. 171) と言っている.
一般化は慎むべきとは思いつつ,-ish に関する拙著論文 (forthcoming) では言語性悪説を以下のように述べた.
Since in the nature of human beings it is arguably easier to criticise, rather than praise, others particularly in everyday, colloquial, or vulgar context, it is small wonder why -ish should tend to extract a negative rather than a positive aspect out of people's close neighbours.
今後も言語にみられる negative 志向の例を収集してゆきたい.それだけだと暗いので,positive 志向の性善説の例(見込み少数)も忘れずに・・・ (see [2010-09-11-1]) .
・ Partington, A. "'Utterly content in each other's company': Semantic Prosody and Semantic Preference." International Journal of Corpus Linguistics 9.1 (2004): 131--56.
・ Louw, B. "Irony in the Text or Insincerity in the Writer? The Diagnostic Potential of Semantic Prosodies." Text and Technology: In Honour of John Sinclair. Eds. M. Baker, G. Francis and E. Tognini-Bonelli. Amsterdam: John Benjamins, 1993. 157--76.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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