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昨日の記事[2010-02-06-1]で同音異綴 ( homophony ) に触れた.今日は,これとしばしば混同される三つの概念を導入し,比較対照しながらそれぞれの理解を深めたい.
・ homophony ( homohphones )
同音異綴(語).発音は同じだが綴字が異なる語どうしの関係.ex. son, sun
・ homography ( homographs )
同綴異音(語).綴字は同じだが発音が異なる語どうしの関係.ex. bow /bəʊ/ 「弓」, bow /baʊ/ 「お辞儀」
・ homonymy ( homonyms )
同音同綴異義(語).発音も綴字も同じだが意味が異なる語どうしの関係.ex. last 「最後の」, last 「持続する」
・ polysemy ( polysemic words )
多義(語).一つの語が,互いに関連する複数の意味をもっている状態.ex. crane 「鶴」「起重機」
上の四つの概念は,綴字と発音と意味の三者の関係が複雑であり得ることを反映したものである.日本語では「綴字」に対応するものが少なくとも二種類(仮名と漢字)へ区別されるため,あり得る関係の組み合わせは余計に多くなる.
polysemy は,定義をみると,他の三つと比べて異質に感じられるかもしれないが,一緒に掲げたのは homonymy との境目が曖昧なケースが多々あるからである.例に挙げた crane は,歴史的には「鶴」が先にあり,その形状が似ていることに基づく比喩 ( metaphor ) で「起重機」の意味が生じた.歴史的に意味の連続性があるという点で,crane という一形態素(語)に複数の意味が対応するようになった ( polysemy ) と考えるのが自然である.辞書でいえば,立てるべき見出しは crane 一つで済む.一方 last の二つの意味は,歴史的に関係がない.別語源の二つの形態素(語)が,偶然に同じ形態へと合流してしまっただけである.本来的に別の語と考えられるので,辞書では見出しを別々に立てるのが自然である.
しかし,歴史的・語源的に考えた上で辞書の見出しの立て方を決めるのが自然という立場は,無条件に受け入れてよいものだろうか.歴史を知らないと仮定して,共時的な立場から,万人が「鶴」と「起重機」のあいだに関連性を見いだせるかは疑問だし,反対に「最後の」と「持続する」のあいだに意味のつながりを見いだす人がいたとしても不思議ではない.例えば,light weight と light blue における形容詞 light はどうだろうか.歴史的には二つの light は区別されるべきであり,homonymy と呼ぶべき関係である.しかし,共時的には「軽い,薄い,淡い」という意味上の共通点でまとめられるのではないかという主張も可能であり,この場合には polysemy の関係であると言える.
homonymy と polysemy の区別を明確につけることはできないという点を考慮しつつ,以上四つの概念を次のように図示してみた.これは,Görlach の図 (51) をもとに改変を加えたものである
・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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