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hellog〜英語史ブログ / 2023-01-17

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2023-01-17 Tue

#5013. When Adam delved and Eve span, who was then the gentleman? の動詞形態を英語史する [proverb][verb][conjugation][rhyme][vowel][rhythm]

 昨日の記事「#5012. When Adam delved and Eve span, who was then the gentleman? --- John Ball の扇動から生まれた諺」 ([2023-01-16-1]) で紹介した諺に含まれる動詞の過去形 delvedspan について,英語史の観点から考えてみたい.

 (1) 現代英語の標準的な過去形としては,規則動詞 delved はこの通りでよいが,不規則動詞 span については英和辞書では「古風」というレーベルがついている(学習者表英英辞書では記載がない).この動詞の標準的な活用は spin -- spun -- spun であり,過去形 span はあくまで歴史的な形態ということである.まだ詳しく調べていないが,中英語まで span が普通だったものの,近代英語以降に現代標準に連なる spun が勢力を伸ばしてきたようだ.この辺りの事情については,他のA-B-C型やA-B-B型の不規則動詞と合わせて考えてみることが必要だろう.関連して「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1]) を参照.

 (2) 現代の諺で古い過去形 span が用いられているのは,まず第1に起源の古い諺だからだ.一般に諺では古形が残りやすい.しかし,ここでは合わせて脚韻 (rhyme) の都合を考える必要がある.この諺は韻律的には2行からなっており,統語的区分と連動して When Adam delved and Eve Span / who was then the gentleman? と分割される.2行目末尾の gentleman と脚韻を踏むために,1行目末尾は spun ではなく span でなければならない.中英語当時は韻律を念頭に man : span の脚韻を踏ませていたわけだが,近代英語以降に動詞過去形が spun へ標準化したからといって,ここで spun に差し替えてしまったら,せっかくの脚韻が台無しになる.厳密にいえば,現代英語では gentlemanman は曖昧母音で /mən/ と発音され,span は強い母音を伴って /spæn/ と発音されるので,いずれにせよ脚韻を踏まないのだが,少なくとも視覚韻 (eye rhyme) は踏むので,この程度のズレは許容されるということだろう.

 (3) delved は今でこそ規則動詞(弱変化動詞)だが,本来は不規則動詞(強変化動詞)だった.古英語では delfan -- dealf -- dulfon -- dolfen の4主要形を示しており,この強変化屈折は中英語でも保たれていた.実際,Speake の諺辞典によると最も早い例では次の通り dalfe が用いられている.

c 1340 R. Rolle in G. G. perry Religious Pieces (EETS) 88 When Adam dalfe [dug] and Eue spane ... Whare was than the pride of man?


  ところが,14世紀後半から弱変化化した過去形が現われ始め,やがて近代になると,この諺でも delved が用いられ始めた.

 (4) 標題の現代標準の諺のリズム (rhythm) を示すと次のようになる.

x/x/x//
whenAdamdelvedandEvespan
/x/x/x/
whowasthenthegentleman

 必ずしもきれいではないし,(2) でも述べたように厳密には脚韻も踏まない.一方,中英語のオリジナルの諺を再建するならば,次の通りのリズムとなるだろう.これであれば脚韻もピタッと揃って美しい.
x/x/x/x/
whenAdamdalfandEvespan
(x)/x/x/x/
 whowasthenthegentleman


 以上,標題の諺を英語史してみた.

 ・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.

Referrer (Inside): [2023-01-18-1]

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最終更新時間: 2024-12-16 08:44

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