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hellog〜英語史ブログ / 2022-05-18

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2022-05-18 Wed

#4769. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の紹介 [personal_pronoun][sound_change][phonetics][etymology][laeme][epenthesis][she]

 3人称単数女性代名詞 she の語源を巡って100年以上の論争が続いてきた.この問題については,hellog でも次の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#792. she --- 最も頻度の高い語源不詳の語」 ([2011-06-28-1])
 ・ 「#793. she --- 現代イングランド方言における異形の分布」 ([2011-06-29-1])
 ・ 「#827. she の語源説」 ([2011-08-02-1])
 ・ 「#829. she の語源説の書誌」 ([2011-08-04-1])

  この古い問題に LAEME という最新のツールを用いて挑んだのが,2014年の Laing and Lass の論文である(LAEME については,「#4086. 中英語研究における LAEME の役割」 ([2020-07-04-1]),「#4396. 初期中英語の方言地図とタグ付きコーパスを提供してくれる LAEME」 ([2021-05-10-1]) をはじめ laeme の各記事を参照).
  she を巡る問題は,端的にいえば,初期中英語期より確認される異形態(現代の標準形 she に連なる形態も含む)に現われる (1) 子音 [ʃ],(2) [eː] および [oː],をどのように説明するのかという2点に集約される.とりわけ,問題解決の鍵となると目されている異形態 [hjoː] などに含まれる [j] が,どのように導出されるかが重要な問題となる.
 従来の説では,問題の [j] は既存の音連続のなかから内在的に導出されることを前提としていた.一方,Laing and Lass の新しさは,[j] は内在的に導出されたのではなく,外在的に挿入されたにすぎないとしたことだ.簡単にいえば,ただそこに [j] が入ってしまったのだ,という説だ.これを前提とすれば上記の (1), (2) のも無理なく解決できるし,LAEME が示す異形態の方言分布の観点からも矛盾は生じないという.
 「ただそこに [j] が入ってしまった」説は,同論文内では "Yod Epenthesis" (= YE) と名付けられている.古英語 [heo] が YE を経由して [hjeo] となり,その後 "eo-Monophthongisation/Merger" (= EOM) を通じて [hjeː] あるいは [hjoː] が導出されるという経路だ(実際には,この最後の過程の背景に中間的な [hjøː] が想定されているらしい).さらに,語頭の [hj] が "Fusional Assimilation" (= FA) を経て [ç] となり,最後に "Palatal Fronting" (= PF) の結果,[ʃ] が出力される,という道筋だ.
 古英語からの流れを図示すれば次のようになる (Laing and Lass 217) .

*heo ((YE)) > *hjeo ((EOM)) >
1 *hjo: ((FA)) > [ço:] ((PF)) > [ʃo:]
2 *hje: ((FA)) > [çe:] ((PF)) > [ʃe:]


 ・ Laing, Margaret and Roger Lass. "On Middle English she, sho: A Refurbished Narrative," Folia Linguistica Historica 35 (2014): 201-40.

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最終更新時間: 2024-12-16 08:44

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