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hellog〜英語史ブログ / 2021-09-08

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2021-09-08 Wed

#4517. World Englishes の研究は方言学の一種か? [world_englishes][dialectology][dialect][variety]

 連日 World Englishes (英語諸変種)の記事を書いているが,世界で用いられている様々な英語の諸変種とは一般の用語でいえば英語の諸方言にほかならない.「方言」 (dialect) のことを「変種」 (variety) と呼び替えているのは,多少なりとも神経質で臆病な社会言語学の慣習というべきもので,学術的な言い分があることは理解しつつ私も常用しているが,たいていの場合は「方言」のほうが分かりやすいと本当は思っている.
 では,World Englishes の研究は英語の「方言学」 (dialectology) とみてよいのかというと,理屈上は Yes だが,慣習上は No というところだろう.学術用語の常で "dialectology" という用語も,歴史を背負って手垢がついている."English dialectology" という場合には,イギリスやアメリカの内部の諸方言の研究を指すのが典型的であり,たとえばインド英語やジャマイカ英語の研究を指して "English dialectology" とは言わない.学術の伝統もあってやむを得ないところもあるのだが,英米中心主義の用語といってよい.
 一方,そのような手垢を取り除いて「地域によって変異する様々な英語」のことを "dialect(s)" とみなす純粋な立場を取れば,インド英語やジャマイカ英語も各々1つの "dialect" に違いなく,それを研究することは "English dialectology" に貢献することになろう.しかし,現在,どうやらそのような見解は希薄である.インド英語やジャマイカ英語の研究は "World Englishes" の研究として言及されるのである.このような呼び替えに,英語学の伝統の「闇」が垣間見える,といってもよいかもしれない.ただし,ENL 変種と ESL 変種は様々な点で異なるのだということも,やはり一面の真実を含んでいるようにも思われるので,この問題についてこれ以上の議論は控えておく.
 上記を踏まえつつも私は,伝統的な "English dialectology" と,昨今とみに注目度を増している "World Englishes" の研究は,もっと接近すべきだと考えている.現代のイギリスやアメリカの内部で細分化されている諸方言や,イギリスにおいて古英語から現代英語まで多様に存在してきた歴史的な諸方言にみられる豊富な変異が,World Englishes 間にみられる豊富な変異と比べて,質においても量においても劣っているとは思わないからである.空間的な規模でいえば,世界の一角にすぎないイギリスやアメリカの英語と世界の隅々に分布する英語とを比べることは「格違い」のように思われるかもしれないが,否,英語が世界化する以前から,例えばブリテン諸島内部だけを念頭においても,言語的変異は思いのほか豊かだったのである.
 上記の私の考え方とおよそ同趣旨の Anderwald (265) の見解を引用する.

Perhaps most importantly, the recent dialectological and sociolinguistic study of non-standard varieties has shown the enormous breadth of variation that English in Britain and the United States already demonstrates. Whenever we find patterns in World Englishes that diverge from standard British or American English, it is of the utmost importance to take this internal variability into consideration. Bearing in mind Chambers's idea of vernacular universals, comparing constructions in Englishes worldwide with just the codified standard(s) is comparing apples with oranges, or, worse, with just one orange. We might find that what looks like an exotic feature of a variety of English in the southern, eastern or other hemisphere, is perhaps mirrored in an isolated dialect area in the Scottish Highlands, in a village in Ireland, or in an undocumented variety of the English Midlands. The call thus is for researchers of World Englishes to take note of the extensive dialectological work that is currently underway on varieties in non-standard 'homeland' varieties, to avoid this kind of mismatch, and ultimately misanalysis.


 私の英語史研究における中心的なテーマは中英語方言学にあるのだが,一見するとかけ離れているようにみえる現代の World Englishes に関心を寄せているのは,このような理由からである.

 ・ Anderwald, Lieselotte. "World Englishes and Dialectology." Chapter 13 of The Oxford Handbook of World Englishes. Ed. by Markku Filppula, Juhani Klemola, and Devyani Sharma. New York: OUP, 2017. 252--71.

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最終更新時間: 2024-10-26 09:48

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