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hellog〜英語史ブログ / 2019-04-29

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2019-04-29 Mon

#3654. x で始まる英単語が少ないのはなぜですか? [sobokunagimon][x][grapheme][phonotactics]

 これまでにも何度か寄せられたことのあった質問です.確かに英語辞書でみても <x> の文字で始まる見出し語は最も少なく,存在感が薄いといえます.
 <x> は,その呼び名 /eks/ が示す通り,典型的には /ks/ (あるいはその有声版 /gz/) の発音を表わします (ex. fox, anxious; exit, anxiety) .しかし,これらの子音連鎖は,原則として英単語の語頭には現われません.だから <x> という文字で始まる単語がほとんどないのです.
 なぜ語頭では /ks/, /gz/ がありえないのかという問い自体は,難しい問題です.英語でも語頭以外では頻繁に現われる子音連鎖なので,その調音が生理的に難しいということは言えません.また,他の言語に目を移せば,ギリシア語などで,/ks/ は語頭でも普通に現われます.したがって,音声学的な理由を探すことは難しそうです.
 しかし,音韻論,より正確には音素配列論 (phonotactics) では,これを単純に「規則」とみなします.つまり,英語では語頭にこの子音連鎖が起こることは許されないという規則があると考えるわけです.日本語でも「ん」は,音声学的には単語内のどの位置に現われても問題ないはずですが,語頭に起こることは原則として許されません.そこで,語頭に「ん」が現われることはできないという音素配列論上の規則があると考えるわけです.このように,各言語には独自の音素配列の規則が備わっています.音素配列論は,非常に多くの,かつ込み入った規則の集合体ですが,母語話者は,母語習得に際して無意識のうちにそれを完璧に学び取ってしまうのです.人間はたいしたものです.
 さて,<x> で始まる英単語は少ないですが,皆無ではありません.そのような単語は,Xmas (= Christmas) や X-ray のような特殊な例か,あるいは /z/ で発音されるギリシア借用語に限られます.<x> ≡ /z/ の対応は,<x> ≡ /gz/ の第1子音の脱落によるものと考えられます.Carney (238) いわく,"One or two words have a §Greek correspondence <x>≡/z/ initially (or for some speakers <x>≡/gz/) --- xenon, xenophobia, xerox, xylophone." ほかに固有名詞として Xanadu, Xanthippe, Xavier, Xenia, Xerxes なども類例です.
 <x> については,「#2280. <x> の話」 ([2015-07-25-1]),「#2918. 「未知のもの」を表わす x」 ([2017-04-23-1]) を始めとする x の記事もご覧ください.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.

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最終更新時間: 2024-10-26 09:48

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