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hellog〜英語史ブログ / 2019-04-23

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2019-04-23 Tue

#3648. なんで *He cans swim. のように助動詞には3単現の -s がつかないのですか? [sobokunagimon][auxiliary_verb][3sp][preterite-present_verb]

 昨日の記事「#3647. 船や国名を受ける she は古英語にあった文法性の名残ですか?」 ([2019-04-22-1]) に引き続き,学生から寄せられた素朴な疑問を1つ.
 私たちは3単現の -s については英文法の時間にうるさく習うわけですが,その割には主語が3人称・単数,時制が現在であっても can, may, shall, must をはじめとする助動詞 (auxiliary_verb) には -s が付くことはありません.これをいぶかるのも無理はありません.標題のような *He cans swim. ではダメで,He can swim. としなければならないのです(文法的に許容されない文は,言語学では「非文」と呼ばれ,頭に * 記号を付す慣習があります).これはどういったわけでしょうか.
 たいていの説明では,can は本動詞ではなく,あくまで助動詞というものであり,助動詞は語形が無変化であることが特徴なのだと説かれます.しかし,このような解説は,英文法はそういうものなのだと言っているにすぎず,私たちが知りたい真の説明にはなっていません.
 英語史の観点からすれば,答えは簡単に出ます.can を含む上記のような典型的な助動詞は,語源的には過去形だからです.3人称かつ単数かつ「現在」の場合にのみ付けられる -s が,語源的に「過去形」である can に付くわけがないのです.*He cans swim. がダメなのは,ちょうど *He swams. や *He walkeds. がダメなのと同じ理由です.同様に,may, shall, must なども語源的には過去形だからこそ -s が付かないわけです.
 これらの助動詞が起源的に過去形であるということは,当初は当然ながら過去の意味をもっていたはずです.ところが,歴史の過程で現在の意味を有するように変化し,形態は過去形ながらも意味は現在というチグハグの状況になってしまいました.このようなチグハグな動詞は,英語史上,過去現在動詞 (preterite-present_verb) と名付けられています.より詳しくは,「#58. 助動詞の現在形と過去形」 ([2009-06-25-1]) と「#66. 過去現在動詞」 ([2009-07-03-1]) をご参照ください.
 どうも法助動詞という語類には,本来過去の意味を表わしていたものが現在の意味を帯びるようになる傾向があるようです.can, may, shall が現在の意味を帯びるようになると,あらたに過去を意味すべく別の過去形が必要となり,実際に could, might, should なる新過去形が生み出されました(簡単にいえば,それぞれの元の助動詞に -ed を付けて,さらに少し変形しただけの形態です).ところが,これら新過去形も,今となっては Could it be true?, She might be in London by now. We should apologize. などのように実際には過去というよりも現在の意味で用いられることが多いのです.
 なお,もう1つの典型的な助動詞 will については上では触れませんでした.というのは,この語は過去現在動詞ではなく,厳密にいえば上記の can などとは同列に議論できないからです.ここでは,will も歴史の過程で can を含む過去現在動詞のグループに取り込まれていき,統語形態上,それらと同じ振る舞いを示すことになったとだけ述べておきましょう.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1]

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最終更新時間: 2019-07-24 05:12

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