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年明けから,語変化への適用可能性を求めて「#3171. 1/f ゆらぎ」 ([2018-01-01-1]) や動的平衡 (dynamic_equilibrium) の周辺について読書しているが,思いも掛けぬところで宮本武蔵に行き着いた.武者 (181--82) が指摘しているように,『五輪書』の水之巻「兵法心持の事」に次のようにある.
兵法の道におゐて,心の持ちやうは,常の心に替る事なかれ.常にも,兵法の時にも,少しもかはらずして,心を広く直にして,きつくひつぱらず,少しもたるまず,心のかたよらぬやうに,心をまん中におきて,心を静かにゆるがせて,其ゆるぎのせつなも,ゆるぎやまぬやうに,能能吟味すべし.静かなる時も心は静かならず,何とはやき時も心は少しもはやからず,心は躰につれず,躰は心につれず,心に用心して,身には用心をせず,心のたらぬ事なくして,心を少しもあまらせず,うへの心はよはくとも,そこの心をつよく,心を人に見わけられざるやうにして,小身なるものは心に大きなる事を残らずしり,大身なるものは心にちひさき事を能くしりて,大身も小身も,心を直にして,我身のひいきをせざるやうに心をもつ事肝要也.心の内にごらず,広くして,ひろき所へ智恵を置くべき也.智恵も心もひたとみがく事專也.智恵をとぎ,天下の理非をわきまへ,物毎の善悪をしり,よろづの芸能,其道〱をわたり,世間の人にすこしもだまされざるやうにして後,兵法の智恵となる心也.兵法の智恵において,とりわきちがふ事有るもの也.戦の場万事せはしき時なりとも,兵法の道理をきはめ,うごきなき心,能能吟味すべし.(宮本武蔵,p. 92)
なるほど,心を常に中心に置きつつ揺るがせておくことによって,予測不能の状況に臨機応変に対応できるよう準備しておくというわけだ.武蔵は 1/f を体得し,動的平衡の奥義を究めていたことになろうか.
言語からだいぶん離れてしまったが,ゆらぎや動的平衡のポイントが明確になってきた.常に不安定であるからこそ得られる安定,混沌のなかの秩序,動的な静態.これらのオクシモロンは言語においても成立にするに違いない.
・ 武者 利光 『ゆらぎの発想 1/f ゆらぎの謎にせまる』 日本放送出版協会,1994年.
・ 宮本 武蔵(著)・鎌田 茂雄(訳) 『五輪書』 講談社,1986年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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