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多くの言語に,方向に関わる直示性 (deixis) がある.直示的方向表現には,hither や thither などを意味する接辞や形態素や小辞で表わされるものもあれば,come や go のように移動動詞 (motion verb) などで表わされるものもある.
よく知られているように,英語の go/come の使い分けは,日本語の「行く/来る」の使い分けとは若干異なる.話し手が聞き手に近づく動作は,日本語では「私はあなたのところへ行きます」と表現するのに対して,英語では I'll come to you と表現する.これは,英語 come と日本語「来る」の方向に関する直示性が異なっていることを示している.
英語 come は,Fillmore の著名な研究によれば,少なくとも以下の5つの条件のもとで用いられるとされる(以下,Huang 161 より).
(i) movement towards the speaker's location at CT [= coding time]
(ii) movement towards the speaker's location at arrival time
(iii) movement towards the addressee's location at CT
(iv) movement towards the addressee's location at arrival time
(v) movement towards the home-base maintained at CT by either the speaker or the addressee.
具体的に John will come to the library next week. という文で考えてみよう.この文を発することができるのは,まず話し手が今図書館にいる場合である (= (i)) .次に,これは話し手が来週 John がやってくる時間に図書館にいる場合にも成立する (= (ii)) .さらに,聞き手が今図書館にいる場合 (= (iii)),あるいは来週の John がやってくる時間に図書館にいる場合 (= (iv)) にも使える.最後に,話し手や聞き手が実際に今あるいは来週に図書館にいるかどうかにかかわらず,図書館が話し手や聞き手の名目上の "home-base" (例えば,職場)である場合には,この文は成立する.例えば,話し手と聞き手がともにその図書館の司書であると仮定すると,次の文は問題なく成立する.John will come to the library next week, but both of us will be on holiday then.
通言語的に come におよそ相当する移動動詞の直示性の条件が異なっているように,ある言語に限っても,通時的にその条件が変化してきたという可能性はある.後者は歴史語用論の話題となるが,そのような研究はすでにあるのだろうか.英語史でこの問題を探ってみるのもおもしろそうだ.
deixis 一般については「#2680. deixis」 ([2016-08-28-1]) を参照.
・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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