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hellog〜英語史ブログ / 2010-09-17

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2010-09-17 Fri

#508. Dracula に現れる whilst [conjunction][lmode]

 先日,ハンガリー旅行中に時間をもてあますことがあり,持参した本もすべて読み潰していたので困ったことがあった.飛び込んだ書店には英語の本があまりなかったのだが(ハンガリー語は読めないので),かろうじて Penguin Popular Classics の一部が置いてあった.物色した結果,アイルランド作家 Bram Stoker (1847-1912) による怪奇小説の名作 Dracula 『吸血鬼ドラキュラ』 (1897) を手に取った.主人公のドラキュラ伯爵はルーマニアの Transylvania 地方(ハンガリー東部から広がる地域)の城主という設定であり,この旅にそこそこふさわしいと思われたからだ.450ページ近くあるので時間潰しの目的にもかなう.帰りの飛行機で本格的に読み始め,帰国後も寝る前に少しずつ読み続けているが,いまだに読み終わらない.
 物語はおもしろいので引き込まれるが,趣味の読書とはいえ,気になる英語表現には目が留まる.気になることの1つに,接続詞 whilst が高頻度で現れることがある.接続詞 whilst は現在ではイギリス英語の文語に特徴的な形式張った語で,while に比べれば頻度の低い語である( Longman の辞書によれば while は最頻1000語レベル以内,whilst は最頻2000語レベル以内).もちろん作品には while も出るが whilst の頻度のほうが圧倒的に高く,この点で現在のイギリス文語の状況とは異なる.さらに whiles なる代替表現も稀ではあるが現れ,これは調べなければと思い立った.ほぼ1世紀の間に,接続詞としての while, whiles, whilst のそれぞれの頻度はどのように変化してきたのだろうか.
 頻度の問題を考察し始める前に,同時性や対立を表す従属接続詞として機能する3種類の形態の起源を見ておこう.現在もっとも一般的に用いられる while は,[2010-06-18-1]で話題にしたように古英語では「時間」を意味する名詞にすぎなかった.それが文法化 ( grammaticalisation ) を経て副詞や接続詞としての機能を発展させてきた.機能的発展という点では whileswhilstwhile と同様であり,名詞 while が起源と考えてよい.ただし前者2語は形態的には説明が必要である.
 whiles の語尾の -s[2009-07-18-1]で話題にした副詞的属格 ( adverbial genitive ) である.whiles は13世紀に初めて現れ,単独であるいは複合的に「〜のときに」を表す副詞や接続詞として普通に見られるようになった.現在ではスコットランド方言で「時々」の意味を表し,また古語としては while と同義に用いられるが,一般的には廃語となったと考えてよい.関連語としては,いずれもやはり古語としてだが otherwhile(s)somewhile(s) がある.
 whilst [waɪlst] は上記の whiles に -t 語尾がついたもので,副詞としては14世紀から,接続詞としては16世紀からおこなわれている.-t 語尾の付加については一種の音便とも考えられるが,意味や機能の点で関連づけられ得る against, amidst, amongst, betwixt などの語類の語尾が互いに影響しあった結果の挿入ではないかといわれる.これらの語類はいずれも副詞的属格の -s を取り,かつ最上級の -st との連想が働いたために,-st をもつようになったと考えられている(日本語でも「〜の最中に」などという).上述したように,whilst は現在ではイギリス英語の文語に限られ,形式張った語である.while と比較すると頻度は高くないが,文章でお目にかかる機会は結構ある.
 接続詞 while の variants として whileswhilst の形態の歴史をみたところで,次回は Dracula の英語と数世代下った英米変種での各形態の頻度を見てみることにしよう.

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