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世界に言語はいくつあるか? 論者によって3,000という数から10,000という数まで様々で,一定しない.だが,複数の論者の平均値としてもっともよく耳にする数が,6,000前後である.
だが,なぜ論者によって数値が違うのだろうか.言語は客観的に数えられないものなのだろうか.Crystal は世界の言語の数を正確に把握できない理由を5点挙げている (3--5).
(1) そもそも世界規模の調査が少ない.確かに20世紀後半からは Ethnologue などいくつかの機関が世界的な調査をおこなっているが,こうした試み自体が比較的新しいものであり,世界言語統計は始まったばかりというべきである.
(2) 多くの論者は上記の調査が不完全であることを知っているために,言語数を任意に切り上げたり切り下げたりしがちである.
(3) 消滅する言語の数とそれらが消滅する速度を正確に把握できない.
(4) 新たに発見される言語の数と発見の頻度を正確に把握できない.(もっとも,発見される「新言語」によって世界の言語数が劇的に増えるとは考えにくいので,影響は僅少だろうが.)
(5) ある変種を「言語」 ( language ) とみるか,ある言語の「方言」 ( dialect ) とみるかについて,明確な基準がない.
昨今,世界規模の調査も進められてきており,(1) から (4) の問題点については改善されてゆくだろう.だが,(5) は社会言語学上の古典的な問題であり,解決の糸口がない.
例えば,1990年には Serbo-Croatian という一言語だったものが現在では Serbian, Croatian, Bosnian と三言語に分裂している.言語が変わったわけではなく,旧ユーゴスラビアが政治的に分裂したがゆえの事態である.
同じように,英語が今後ますます多様化してゆくことを考えると,Indian English, Singapore English, Caribbean English などはすべて English から独立した別の言語として数えられるようになるかもしれない.
数えるって難しい.
・Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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