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言語の起源は闇に包まれている.[2009-06-08-1]で触れたように,今から10万年ほど前に発生したとのではないかと言われているが,なぜどのように発生したかについては憶測の域を出ない.憶測は人間の想像力の及ぶかぎりに広がるもので,言語の起源に関しては,過去に幾多の珍説が提唱されてきた.珍説の例を挙げれば,オウムのまねをした説,箱船で知られる Noah の母語が最初の言語であり中国語だったとする説,等々.
言語起源論はもっとも強く人々を惹きつけてきた論争の一つであるが,そもそも科学的に証明が不可能であることからすべての議論は不毛であるとして,1866年,フランスの言語協会は一切の言語起源論の禁止を宣言した.1893年には,アメリカ人言語学者の William Dwight Whitney も次のように述べている.
No theme in linguistic science is more often and more voluminously treated than this . . . nor any . . . with less profitable result in proportion to the labour expended; the greater part of what is said and written upon it is mere windy talk, the assertion of subjective views which commend themselves to no mind save the one that produces them, and which are apt to be offered with a confidence. This has given the whole question a bad repute among sober-minded philologists. (279)
このように,言語起源論は言語学の分野ではタブーとされるようになったが,近年,再び議論が復活してきている.Aitchison の考察によれば,これには二つの理由があるという.一つは,宗教的な独断主義が衰退してきていることである.従来は,立派な学者ですら,神がアダムを作り,アダムに言語を与えたとする聖書の教条に真っ向から対立することを避けようとする傾向があった.しかし,現代における宗教観の薄まりとともに,聖書に背反する「後ろめたさ」も減じてきており,進化論に基づくヒトと言語の起源論が取り上げやすくなってきたのだという.
もう一つの理由は,他の動物との比較におけるヒトの研究が進展してきていることである.19世紀には知り得なかった人類学の最新の知見に基づき,新たな言語起源論の模索が始まりつつあるということだろう(see [2009-10-04-1]).
珍説度は上記のものより劣るだろうが,言語学の教科書で取り上げられることの多い言語起源説については,The Origin of Languageによくまとめられている.
・Aitchison, Jean. The Seeds of Speech: Language Origin and Evolution. Cambridge: CUP, 1996. 4--7.
・Whitney, W. D. Oriental and Linguistic Studies. Vol. 1. New York: Charles Scribner's Sons, 1893.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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