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標題については「#3130. 複雑系言語学」 ([2017-11-21-1]) をはじめとして complex_system の記事で垣間見てきた.一昨日の記事「#4673. 言語の統計的必然性と偶然性」 ([2022-02-11-1]) で参照した田中が,『言語とフラクタル』の導入部で「複雑系」と題する1節を書いている.p. 34--35 より要点を引用したい.
本書における複雑系は,以下の二つの大域的な性質が満たされるものとして定義される.
・ 要素の分布にスケールフリー性が成り立つこと
・ 列に長期記憶があること
〔中略〕
要素の分布にスケールフリー性があることは,系の要素が無限に増えていく無限系であり,また,系は開放性を持つことを示唆する.一方,第二の基準の長期記憶に関しては,言語の列に内在する特性を表し,〔中略〕本書でいう長期記憶 (long memory) とは,コーパスのある部分が,そこから遠く離れた別の部分に影響を及ぼすことをいう.影響を及ぼす要因は,意味的,構文的,実用論的等さまざまで,その種別を問わず,長距離での関係をおしなべて長期記憶と総称する.日本語として認知科学以外の分野では耳慣れないかもしれないが,大元の英語 long memory は,複雑系科学では頻出する.
「スケールフリー性」にせよ「長期記憶」にせよ言語学で一般に用いられる用語ではない.しかし,このような概念を用いて説明されてきた自然界や人間界の多数の現象から,言語現象がそれほど隔たっているわけではない,という洞察が複雑系言語学の要点である.ただし,他の現象とまったく同じというわけではない.その差異を的確にとらえることができれば,言語を言語たらしめている本質が見えてくるのではないか.そのような期待がある.
・ 田中 久美子 『言語とフラクタル --- 使用の集積の中にある偶然と必然』 東京大学出版会,2021年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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