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「#2612. 14世紀にフランス語ではなく英語で書こうとしたわけ」 ([2016-06-21-1]) で取り上げたように,後期中英語期にはイングランド人のフランス語使用は減っていった.14世紀から15世紀に入るとその傾向はますます強まり,フランス語は日常的に用いられる身近な言語というよりは,文化と流行を象徴する外国語として認識されるようになっていった.フランス語は,ちょうど現代日本における英語のような位置づけにあったのだ.
15世紀初頭に John Barton がフランス語学習に関する Donet François という論説を書いており,イングランド人がフランス語を学ぶ理由は3つあると指摘している.1つ目は,フランス人と意思疎通できるようになるから,という自然な理由である.なお,イングランド人の間での日常的なコミュニケーションのためにフランス語を学ぶべきだという言及は,どこにもない.後者の用途でのフランス語使用はすでに失われていたと考えてよいだろう.
2つ目は,いまだ法律がおよそフランス語で書かれていたからである.3つ目は,紳士淑女はフランス語で手紙を書き合うのにやぶさかではなかったからである.
2つ目と3つ目の理由は後世には受け継がれなかったが,特に3つ目の理由に色濃く感じられる「フランス語=文化と流行の言語」のイメージそのものは存続した.フランス語のこの方面での威信は,後の18世紀に最高潮に達したが,その余韻は現在も息づいていると言ってよいだろう.フランス借用語彙に宿っているオシャレな含意と相まって,英語(話者)にとってのフランス語のイメージは,中世から大きく変化していないのである.以上,Baugh and Cable (147) を参照した.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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