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hellog〜英語史ブログ / 2016-01-15

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2016-01-15 Fri

#2454. 文字体系と表記体系 [grammatology][writing][japanese][orthography][terminology]

 「文字体系」「書記体系(書記法)」「表記体系(表記法)」という用語は,論者によって使い方が異なるが,私は以下のように考えたい.現代の日本語表記でいえば,そこでは平仮名,片仮名,漢字,ローマ字という独立した「文字体系」が区別される.それぞれの文字体系に関しては独自の「書記法」があり,例えば仮名では仮名遣いが,漢字では常用漢字の使用や熟字訓に関する規範がある.また,文字体系の使い分けや送り仮名の規則など,複数の文字体系の混用に関する標準的な決まりごとがあり,それは日本語の「表記体系」と呼びたい.
 この辺りの問題,特に「文字体系」と「表記法」という用語の問題について,河野・西田 (pp. 179--82) が対談している.以下は,西田の発言である.

 日本語の文字体系という問題に入りますけれども,まず,文字体系と表記法というのは別の問題だと思うのですね.表記法というのは,どういうふうに日本語を書き表わしているかということです.一方,文字体系というのは,たとえば仮名は仮名で一つの文字体系をもっている.漢字は漢字で一つの文字体系をなしている.ローマ字はローマ字で別の一つの文字体系をもってる.ですから,日本の場合だと,そういう文字体系を混用しているところに特徴があるわけですね.その混用していることをどう考えるかという問題だと思います.
 表記法の問題であれば,たとえば今の仮名遣いがそれでいいのか,どういうふうに改良したらいいのかという問題になってきて,これは面倒なことになりますから,あまり個人的な意見をいうのはちょっとむずかしいと思いますので,文字体系が混用されていることをどう考えるかという問題として取り上げたいと思います.
 そうすると,日本語の表記には少なくとも三つの文字体系を覚えなければいけない.三つというのは,漢字と仮名――片仮名・平仮名ですね――それからそれに付随してローマ字です.三つの文字体系を覚えなければいけないというのは,記憶に対して非常に負担になるということは一応あるわけですが,それを除いて,三つでも四つでも誰でも記憶できるのだということで考えた場合には,非常に便利ではないかと思うのですね.
 文字体系の混用といっても,どの場面にどの文字を使うかが,習慣的にかなりの程度に決まっている.たとえば漢語からきたものは漢字で書く.それから日本的な文法的要素は仮名で書く,欧米からきた借用語は片仮名で書く.そういう,だいたいの配分のようなものが決まっていて,その上で混用されているということになると思います.
 たとえば漢字がわからなければ仮名で書いておけばいいわけで,これは非常に便利なことだろうと思います.ほかの言語では,おそらくこのように混用している言語というのは非常に少ない,あるいはほとんどないのではないか.必ずしもそうとはいえないかもしれませんが,そのことはあとでまたちょっと触れたいと思います.
 文字の混用はどういう意味があるかといいますと,日本語を書くときに,漢字を使うか,仮名を使うかという選択があった場合に,どちらの文字を使えばより効果的かの一つの判断に立って使っているわけだと思います.漢字の中でも,どの漢字を使うか,たとえばヨロコブには「喜」を使うか,あるいは「慶」を使うか,はたまた「悦」を使うか,これは一つの判断によって決めているわけなんで,そういう文字の選び方は,その文字がもっている本来の価値と付加価値というんですか,その言葉を表記するためにいろいろな人が使っているうちに,自然に付加された価値によっている.それは単に言葉を表記している,意味を表記しているとか,発音を表記しているとか,そういうものだけじゃなくて,歴史の流れの中でそれにプラスされてきた別な価値が生きてくる.その付加価値をどう判断しているかということになると思うのですね.
 ですから,字形のもつ価値以外のものは,別に研究していく必要があると思います.
 また片仮名を挿入することがどういう意味をもつかということですね.付加価値についての調査はあまりされていないと思うのです.それから複数の文字体系の使用の問題ですが,例えば中国の場合,普通みな漢字だけを使っていると思うわけですけれども,実はそうじゃなくて,拼音文字といわれるローマ字表記が併用されている.もう少し遡った段階では,注音符号という文字が使われていた.ですから,必ずしも文字体系がすべて漢字だけであるとはいえないと思いますね.


 このように,とりわけ日本語の表記法の特徴は,ことばを書き記す際に,使用する文字体系やその混用の様式を,書き手がある程度主体的に決められるという点にある.
 関連して「#2391. 表記行動」 ([2015-11-13-1]),「#2392. 厳しい正書法の英語と緩い正書法の日本語」 ([2015-11-14-1]),「#2409. 漢字平仮名交じり文の自由さと複雑さ」 ([2015-12-01-1]) を参照されたい.

 ・ 河野 六郎・西田 龍雄 『文字贔屓』 三省堂,1995年.

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