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hellog〜英語史ブログ / 2015-08-12

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2015-08-12 Wed

#2298. Language changes, speaker innovates. [language_change][sociolinguistics][causation][invisible_hand][methodology][contact]

 本ブログでは,英語史に関する記事と同じくらい言語変化 (language_change) に関する記事を書いてきた.言語変化という用語や概念を当然の前提としてきたが,この前提の背景において理解しておかなければならないことがある.それは,言語変化 (linguistic change) と話者刷新 (speaker-innovation) の区別である (Milroy 77) .言語が変化するのは,話者が言葉遣いを刷新するからである.
 話者が言葉遣いを刷新したからといって,それが言語変化に直結するとは限らない.一度きりの繰り返されることのない刷新にすぎないかもしれないし,個人的な変異にとどまるかもしれない.それが言語体系のなかに定着し,言語共同体内に拡がってはじめて,言語変化が生じたといえる.時間順でいえば,話者刷新は言語変化に先行する.また,話者不在の言語変化はありえないということでもある.このことは考えてみれば自明ではあるが,私たちは「言語変化」を論じる際に,しばしば言語体系を自律したものとして扱い,話者を脇に追いやる.意識的にそのような方法論を採っているのであれば問題は少ないと思われるが,言葉遣いの刷新の主体が話者であるという事実は,常に念頭においておく必要がある.
 刷新や変化の主体が話者と言語のあいだで容易にすり替わり得るのは,刷新から変化への移行に関するメカニズムがよく解明されていないからでもある.そのメカニズムの1つとして見えざる手 (invisible_hand) が提案されているが,それも含めて,今後の研究課題といってよいだろう.
 似たような用語上の懸念として,話者(集団)どうしが接触しているにもかかわらず,しばしば「言語接触」 (language contact) が語られるということがある.言語接触という見方そのものに問題があるわけではないが,それに先だって常に話者接触があるという認識が肝心である.
 言語変化と話者刷新の区別や話者不在の言語(変化)論については,以下の記事で話題にしてきたので,参照されたい.
 
 「#546. 言語変化は個人の希望通りに進まない」 ([2010-10-25-1])
 「#835. 機能主義的な言語変化観への批判」 ([2011-08-10-1])
 「#837. 言語変化における therapy or pathogeny」 ([2011-08-12-1])
 「#1168. 言語接触とは話者接触である」 ([2012-07-08-1])
 「#1549. Why does language change? or Why do speakers change their language?」 ([2013-07-24-1])
 「#1979. 言語変化の目的論について再考」 ([2014-09-27-1])
 「#1992. Milroy による言語外的要因への擁護」 ([2014-10-10-1])
 「#2005. 話者不在の言語(変化)論への警鐘」 ([2014-10-23-1])

 ・ Milroy, James. "A Social Model for the Interpretation of Language Change." History of Englishes. Ed. Matti Rissanen et al. Berlin: Mouton de Gruyter, 1992. 72--91.

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