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hellog〜英語史ブログ / 2013-11-26

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2013-11-26 Tue

#1674. 音韻変化と屈折語尾の水平化についての理論的考察 [synthesis_to_analysis][inflection][drift][high_vowel_deletion]

 英語史,ゲルマン語史,印欧語史のいずれについても程度の差はあれ言えることだが,音韻変化による屈折語尾の水平化が,屈折体系という形態論の崩壊をもたらし,代わりに分析という統語的機構が発達してきた.音韻変化が形態と統語という文法部門に衝撃を与えた事例だが,この衝撃は直接のものなのか,間接のものなのか.とりわけ弱音節の音韻変化と屈折語尾の水平化の関連,音韻論と形態論の関わりはどのようなものなのか.英語史などでもこの関連性はおよそ自明のこととして受け取られてきたが,理論的に考察される機会,少なくともそれが紹介される機会は少ない.この関連性の問題について,Bradley (16--19) の考察を示そう.
 音韻変化が形態変化につながる場合,その音声変化の効果としては3種類が認められる.(1) confluent development, (2) divergent development, (3) dropping of sounds である.(1) は,異なる2つの音が1つに融合することにより,かつての形態的な区別が失われる場合である.古英語で区別されていた āo は,ある環境において融合し,現代英語では ō として実現されている (ex. hāl (whole) と fola (foal)) .
 (2) は,逆に1つの音が2つに分かれることによって,形態的な区別が新たに生まれる場合である.例えば,古英語の ic lǣde (I lead) と ic lǣdde (I led) の動詞形態に注目すると,語幹音節が開音節か閉音節かという条件によって,後の語幹母音の発展が決まった.同じ ǣ が,環境によって異なる2音へと分岐したのである.
 (3) の例としては,古英語において,それ以前に生じたとされる High Vowel Deletion と呼ばれる音韻変化の結果として,重音節に後続する -u 屈折語尾が現れないというものがある.中性強変化名詞では,単数の scip に対して複数は scipu だが,hūs は単複同形である.効果としては (1) と同じであり,もともと区別されていた2つの形態が1つへ融合してしまっている.
 3種類の音韻変化の効果をまとめると,(1) と (3) は形態の区別を失わせる方向に,すなわち一見すると単純化の方向に働くのに対し,(2) は形態の区別を生み出す方向,すなわち一見すると複雑化の方向に働く.つまり,音韻変化には相反するかのような効果が同時に働いているということになる.しかし,文法の機能という観点からみると,その効果は一貫して非機能化の方向に働いているともいえるのである.Bradley (18) は,sciphūs の例を念頭に,以下のように述べている.

In this instance phonetic change produced two different effects: it made two declensions out of one, and it deprived a great many words of a useful inflexional distinction. / We thus see that the direct result of phonetic change on the grammar of a language is chiefly for evil: it makes it more complicated and less lucid.


 これは,音韻変化と屈折形態論との関係に関する,鋭い理論的な洞察である.
 音韻変化が形態論のエントロピーを増大させることについては,「#838. 言語体系とエントロピー」 ([2011-08-13-1]) を参照.

 ・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

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