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昨日の記事「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]) や「#1239. Frequency Actuation Hypothesis」 ([2012-09-17-1]) で取り上げた Phillips の研究のように,語の頻度を考慮する言語変化の研究には多大な関心を寄せているが,方法論上の素朴な疑問として,ある語の頻度それ自体が通時的に変わるという事実をどのように考えればよいのかという問題がある.ある特定の語ではなく,語彙の全体あるいは部分集合を考える場合には,1--2世代の時差は大きな問題ではないだろうと直感される.だが,1世紀の時差ではどうか,2世紀ではどうか,と考えると,どこまで直感に頼れるものか,はなはだ心許ない.Phillips (225--26) は,この問題について次のように楽観している.
The words' frequencies are based on present-day English, but the general pattern of relative frequencies probably holds for the English in our data base (1755--1993) as well. For example, I would be very surprised if the 3-syllable verbs with CELEX frequencies over 100 --- concentrate, demonstrate, illustrate, contemplate, compensate, designate, and alternate --- were not also much more common in 1755 than those with frequencies of 0 --- altercate, auscultate, condensate, defalcate, eructate, exculpate, expuergate, extirpate, fecundate, etc.
2世紀余の時差を相手にしていながら,頻度が100回以上の語と0回の語を比べるというのは大雑把にすぎるように思われる.確かに,Phillips は実際の頻度分析でも101回以上,10--100回,1--10回という荒い区分を用いており,大雑把な頻度情報を大雑把なままに用いる慎重さは示している.しかし,もし特に10--100回辺りの中頻度レベルの語をより詳細に調べようとするのであれば,2世紀の間にそれなりに頻度が変化している可能性はある.Phillips ならずとも,頻度を利用した通時的研究に関心をもつ誰もが突き当たるはずの問題だ.
すぐに思いつく単純な解決案は,各時代を代表するできるだけ大きなコーパスを利用して頻度表を作成することである.案としては単純だが,実際に遂行するのは一手間も二手間もかかる.綴字がある程度固定した近代英語であれば,コーパスを用意して頻度表の自動作成ができそうだが,中英語以前では綴字や語形の variation ゆえに lemmatise されていない限りは見出し語単位での頻度表作成は難航しそうだ.また,時代が古くなればなるほど,コーパスに含まれるテキストの representativeness の問題は深刻になる.ただし,荒っぽい頻度表でも,ないよりはあるほうがよい.いずれ作成してみたいと思っている.あるいは,時代によってはすでにあるだろうか?
なお,引用にある CELEX という単語データベースは,現代英語の語や形態に関する量的な研究でよく使われているものである.詳細は,CELEX2 を参照.また,頻度と通時態の関係については,[2012-05-03-1]の記事「#1102. Zipf's law と語の新陳代謝」を参照.
・ Phillips, Betty S. "Word Frequency and Lexical Diffusion in English Stress Shifts." Germanic Linguistics. Ed. Richard Hogg and Linda van Bergen. Amsterdam: John Benjamins, 1998. 223--32.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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