hellog〜英語史ブログ     前の日     次の日     最新     2010-06     検索ページへ     ランダム表示    

hellog〜英語史ブログ / 2010-06-06

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

2010-06-06 Sun

#405. Second Germanic Consonant Shift [consonant][grimms_law][sgcs][germanic][german]

 [2009-08-08-1]の記事で,グリムの法則 ( Grimm's Law ) を含む第一次ゲルマン子音推移 ( First Germanic Consonant Shift ) について触れた.印欧語族のなかでゲルマン語派を他の語派と区別する体系的な子音変化で,ゲルマン祖語において紀元前1000?400年あたりに生じたと考えられている. 第一次という名称があるということは第二次がある.今回は,西ゲルマン諸語 ( West Germanic ) の高地ゲルマン諸語 ( High Germanic ) に生じた第二次ゲルマン子音推移 ( Second Germanic Consonant Shift ) に触れたい.
 ゲルマン語派の系統図 ([2009-10-26-1]) から分かるとおり,West Germanic は High Germanic と Low Germanic に分かれる.Second Germanic Consonant Shift (以下略して SGCS ) は High Germanic を Low Germanic と区別する体系的な子音変化で,6世紀から8世紀のあいだに生じたとされる.その効果は,例えば現代の標準ドイツ語である高地ドイツ語 ( High German ) に現れているが,英語には現れていないことになる.後に英語となる言語を話していた Angles, Saxons, Jutes はこの頃までにすでにドイツ北部の故地からブリテン島へ渡っており,英語は SGCS を受けることがなかったからである.別の見方をすれば,現代ドイツ語と現代英語の子音の一部は,SGCS を介して対応関係が見られるということになる.
 SGCS の貫徹度は高地ドイツ方言によっても異なるが,標準ドイツ語は平均的とされ,比較には便がよい.SGCS では無声閉鎖音が無声摩擦音・破擦音へ,有声閉鎖音が無声閉鎖音へ,無声摩擦音が有声閉鎖音へとそれぞれ循環的に変化した.グリムの法則の説明に用いた循環図 ( [2009-08-08-1] の下図) でいえば,時計回りにもう一回りしたのに相当する.しかし,グリムの法則と異なり,各系列のすべての子音に生じたわけではない.現代英語と現代ドイツ語の対応語ペアを例としていくつか挙げながらまとめよう.

(1) 無声閉鎖音 → 無声摩擦音

 ・ /p/ > /pf/: carp/Karpfen, path/Phad, pepper/Pheffer, pound/Pfund
 ・ /p/ > /f/ <ff> (母音の後で): deep/tief, open/offen, ship/Schiff, sleep/shlafen
 ・ /t/ > /ts/ <z>: heart/Herz, smart/Schmerz, ten/zehn, tide/Zeit, to/Zu, tongue/Zunge, town/Zaun, two/zwei
 ・ /t/ > /s/ (母音の後で): better/besser, eat/essen, fetter/Fessel, great/gross, hate/Hass, water/Wasser, what/was
 ・ /k/ > /x/ <ch> (母音の後で): make/machen, book/Buch

(2) 有声閉鎖音 → 無声閉鎖音

 ・ /d/ > /t/: bride/Braut, daughter/Tochter, death/Tod, dream/Traum, middle/mittel

(3) 無声摩擦音 → 有声閉鎖音

 ・ /θ/ <th> > /d/: feather/Feder, north/Nord, thanks/Danke, that/das, thick/dick

 SGCS は歴史時代に起こっているため,循環的な変化が drag chain によって進行したことがわかっている.ここから,歴史時代以前に起こった第一次子音ゲルマン子音推移もおそらく drag chain だったのではないかと推測することができる.

 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006. 141--42.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

最終更新時間: 2024-10-26 09:48

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow