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[2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1]の記事で,現代世界における英語の話者を区分する伝統的なモデルを見てきた.現代世界における英語を話題にするとき,国際語としての英語という意味で EIL ( English as an International Language ) という呼称を用いることが多い.最近では国際共通語としての側面を強調する ELF ( English as a Lingua Franca ) という呼称も聞かれるようになってきた.
過去の記事で見てきた伝統的なモデルでは,いずれも多かれ少なかれ英語母語話者が主要な役割を担っていることが前提とされていた.しかし,ここ数年の EIL を取り巻く議論では,今後は非英語母語話者こそが EIL の行方をコントロールすることになるだろうという論調が優勢である.この潮流を反映して,伝統モデルからの脱却を目指す,発想の転換ともいえる英語話者区分モデルが現れてきている.その一つに,Jenkins の三区分がある (83).
(1) MES = Monolingual English Speaker
英語以外の言語を話さない話者.
(2) BES = Bilingual English Speaker
英語を含め二つ以上の言語について母語なみに堪能な話者.言語間の習得の順序は問わない.
(3) NBES = Non-Bilingual English Speaker
母語ほど堪能ではないが英語を話す話者.
単純に考えれば,MES, BES, NBES は,それぞれ伝統的なモデルでいう ENL, ESL, EFL に対応するが,新しい呼称に発想の転換が見いだせる.伝統モデルの呼称では英語習得の順序や英語への距離感が含意されるが,新モデルの呼称では英語とそれ以外に習得している言語との関係が強調されている.EIL の話しをしている以上あくまで英語は中心に置かれるが,その他に習得している言語があるかどうかという点がフォーカスされている.
この観点からすると,MES は「英語以外の言語を話さない話者」あるいはもっと露骨にいえば「英語しか話せない話者」を含意する呼称となり,この範疇に属する多くの英語母語話者が相対的に劣勢に立たされることになる.それに対して BES や NBES は「他言語も話せる英語話者」というポジティブな立場を付与される.特に BES は,国際語としての英語にも堪能な多言語話者として,比較優位に立つ.
Jenkins 自身も認めているように,この区分には問題点もある(例えば,BES と NBES を分ける堪能の度合いは誰がどう決めるのか).しかし,伝統モデルからの脱却の試みとしてはおもしろい.グローバル化した現代社会では英語に限らずmonolingual であることは不利であること,monolingualism がそもそも世界の規準ではないことを反映している点でも,注目すべきモデルである.
・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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