hellog〜英語史ブログ

#5200. 場所の表現法[onomastics][toponymy][deixis][conversation_analysis][pragmatics]

2023-07-23

 場所を表現する方法 (place formulations) には,いくつかある.De Stefani (60) は,先行研究に言及する形で5つを提示している.それぞれについて思いついた例を添える.

 1. geographical formulations: 住所,緯度・経度,方角,距離
 2. relation to members formulations: 「鈴木君の家」「私の学校」
 3. relation to landmarks formulations: 「駅の前」「橋の近く」
 4. course of action places: 「私が初めて彼女と出会った駅」「このチーズを買ったスーパー」
 5. place names: 「慶應義塾大学三田キャンパス」「ロンドン」

 ほかに,「ここ」 (here) や「そこ」 (there) などの直示表現もあるだろう.
 おもしろいのは,同一の場所を指すにしても複数の表現方法があり得ることである.例えば,私にとって「ここ」は「東京都○○市○○町○○丁目○○番地○○号」であり,「私の家」でもあり,「この記事を書いている部屋」でもある.いずれの表現を選択するかは,私がどのくらいの解像度でその場所を指し示したいのか,聞き手がどの程度の事前知識を持ち合わせていると予想されるか,など複数のパラメータに依存する.
 例えば,観光客に駅への道を尋ねられた場合に,「あそこに見える2つ目の信号を右に曲がって150メートルくらいです」のようにランドマークや距離などの情報を与えつつ答えるということはよくあるが,決して「私が初めて彼女と出会った駅」や「鈴木君の家から見えるところ」とは答えないだろう.相互行為において様々なパラメータを考慮した上で最も適切に選ばれた回答が,良い回答となるのである.
 場所のみならず人を表現する方法についても同じようなことが言えそうである.では,(5) のように地名,そして人名を直接用いるケースというのは,どのような場合なのだろうか.cここにおいて,地名と人名などの名前を研究対象とする固有名詞学 (onomastics) は,語用論 (pragmatics) や会話分析 (conversation_analysis) などの分野と交わりをもつことになる.

 ・ De Stefani, Elwys. "Names and Discourse." Chapter 4 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 52--66.

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