意味の曖昧性 (semantic vagueness) は,意味変化において重要な意味をもつ.曖昧さとは「漠然とした,はっきりしない」という点で,伝統的な言語論では否定的に扱われてきたが,Wittgenstein (1889--1951) が語彙と意味におけるファジーでアナログな家族的類似 (family resemblance) を指摘して以来,むしろ言語における重要で有用な要素であると考えられるようになった (cf. 「#1964. プロトタイプ」 ([2014-09-12-1])) .しかし,曖昧性といってもいくつかの種類がある.Waldron (146--48) に従って4つに分類しよう.
(1) ambiguity. 意味解釈に2つ以上の選択肢があり,そのいずれが意図されているかを特定できない場合.これは,言語項が必然的にもつ多義性 (polysemy) の結果といえる.He gave me a ring. における ring など語彙的な ambiguity もあれば,Flying planes can be dangerous. のような統語的な ambiguity もある.
(2) generality. 一般的あるいは抽象的な語が用いられるとき,実際にどの程度の一般性あるいは抽象性が意図されているのか不明な場合がある.例えば,some, often, likely, soon, huge といった場合,具体的には各々どれほどの程度なのか.また,thing, act, case, fact, way, matter などの抽象的な語では,実際に何が指示されているのか判断できないことがある.この意味での曖昧性は,「#1962. 概念階層」 ([2014-09-10-1]) でみた概念階層 (conceptual hierarchy) あるいは包摂関係 (hyponymy) の上下関係の問題と関連する.
(3) variation. ある語の厳密な定義が,話者の間で揺れている場合.例えば,honour とは何か,justice, wicked, fair, culture, education, conservative, democratic とは何であるかについては,個人によって意見が異なる.抽象語に広く見られる現象.
(4) indeterminacy. 指示対象の境目がはっきりしない場合.例えば,shoulder, neck, lip など体の部位の範囲は各々どこからどこまでなのか,morning, afternoon, evening のあいだの区別は何時なのか等々,指示対象自体の物理的な範囲が明確に定められていない,あるいは明確に定める必要も特に感じられない場合である.
(1) は意味変化の結果としての多義性に基づくが,(2), (3), (4) は多義性を生み出す意味変化の種ともなりうることに注意したい.曖昧さ,多義性,意味変化の相互関係は複雑である.
・ Waldron, R. A. Sense and Sense Development. New York: OUP, 1967.
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