昨日の記事 ([2024-03-19-1]) で紹介した 川添愛さんによる『世にもあいまいなことばの秘密』(筑摩書房,2023年)のあとがき (221--22) に,次のような文章があり,いたく共感しました.
ここ数年で言語学関連の一般書を何冊か出版してから,専門外の人々と言葉について話をする機会が増えました.そこで感じたのは,言語学の分野の中にいる人とそうでない人の間には,言葉に見方に大きな違いがあることです.
言語学の中にも多くのジャンルがあるため一概には言えませんが,言語学者はおおよそ,普段から言語学の知識に基づいて言葉を分析しています.ある意味,言葉に対する「解像度」が高いと言っていいかもしれません.言語学の内部にいるときは,そんなことはできて当たり前なので,それが世の中の役に立つという意識はありませんでした.しかし最近になって,そういった言語学者の知見がもう少し広まってもいいのではないかと思うようになりました.
本書のテーマである「言葉の曖昧さ」についても,言語学者はそれらを検知するトレーニングを受けていますし,原因もある程度特定することができます.しかし専門外の人々にとって,「曖昧さ」はその名のとおり曖昧模糊としているように思えます.とくに最近では文字のコミュニケーションが増えたことで,言葉によるすれ違いが頻発しています.お医者さんが患者さんのために病気の原因を特定して伝えるのと同じように,言語学者も言葉の問題に悩む人たちに「それはこれこれこういう理由で起こっているんですよ」と伝えられればいいのではないかと思い,本書を執筆しました.
私の専門は英語史や歴史言語学です.多くの方々とは異なる視点から言語を見ています.おそらく多くの言語研究者,とりわけ共時的な言語学を専攻する方々とも異なった観点から言語を見ています.
この hellog や拙著,また Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」や YouTube 「いのほた言語学チャンネル」などの媒体で日々英語史を中心とする情報を発信しています.多くの方々に言葉のもつ恐るべき力 --- 自分のためにも社会のためにも,創造にも破壊にも寄与する力 --- に気づいて欲しいという思いがあるからです.この凄まじい力をポジティヴに使いこなすことができれば,個人もにとっても集団にとってもすばらしいことでしょう.
・ 川添 愛 『世にもあいまいなことばの秘密』 筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉,2023年.
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