hellog〜英語史ブログ

#1910. 休止[prosody][syntagma_marking][terminology][word]

2014-07-20

 言語学・韻律論における休止 (pause) あるいは休止現象 (pausal phenomena) とは,話者が発話の途中におく無音区間である.生理学的な観点からみれば,休止は発話中の息継ぎのために必要な時間とも言えるし,次の発話のための準備の時間とも言えるだろう.言語学的な観点からみると,言語音が発せられないのだから何も機能を果たさないかのように考えられそうだが,それは誤りである.黙説や無言が修辞的な効果をもちうるように,休止もまた言語学的な機能を果たす.
 佐藤 (57) によれば,休止とは「話し手にとって,プロミネンスと連動して効果をあげるための無音区間であり,聞き手にとって,聴取した内容を整理し,記憶を強化するために必要な時間」と定義される.この定義では,休止が話し手の産出,聞き手の理解に重要な役割を果たしていることが明示されている.統語上,意味上,談話上のプロミネンス(卓立)を標示するのを前後からサポートする機能といえるだろう.
 休止のもつもう1つの言語学的機能は,文法的な境界を標示することである (Crystal 355) .話者は,文の構造上の切れ目で休止を入れることにより,聞き手の分析にかかる負担を減らしてあげることができる.Crystal はこの機能を juncture pause と呼んでいるが,橋本萬太郎の用語でいえば「#976. syntagma marking」 ([2011-12-29-1]) に相当するだろう.この機能は強勢や抑揚など他の韻律的な手段によっても実現されうるのだから,休止も,音声上はゼロであるとはいえ,これらの手段と同列に位置づけるのが妥当だろう.
 また,通常の発話では一語一語の間に休止を入れているわけではないが,潜在的にはどの語境界(場合によっては形態素境界)にも休止を置くことができるので,語 (word) を同定する潜在的機能をもっているともいえる.これは potential pause と呼ばれる.この概念は,語の内部で休止を置くことが絶対にできないということを含意するものではないが,語の内部よりは語の境界で休止するほうがずっと普通であることは間違いない.語(の境界)を定義するということは言語学上の最大の難問の1つだということを「#910. の定義がなぜ難しいか (1)」 ([2011-10-24-1]),「#911. の定義がなぜ難しいか (2)」 ([2011-10-25-1]),「#912. の定義がなぜ難しいか (3)」 ([2011-10-26-1]),「#921. の定義がなぜ難しいか (4)」 ([2011-11-04-1]),「#922. の定義がなぜ難しいか (5)」 ([2011-11-05-1]) の記事で扱ってきたが,休止という「言語らしくない」現象がこの問題に鍵を与えてくれるというのが興味深い.
 休止がより長く,より意図的に置かれると,それは談話的・修辞的な意味を帯び始め,黙説や無言というカテゴリーへ移行するだろう.ここでは考察を割愛するが,改めて論じるべき休止のもう1つの言語学的な機能である.
 なお,広い意味での休止は,文字通りの無音のもの (silent pause) だけでなく,aher などのつなぎ語 (filler) として実現される有音の休止 (filled pause) も含みうる.filled pause は,上述の構造的な機能 (juncture pause) からは少なくとも部分的に独立しており,もっぱら躊躇を示すので,区別して hesitation pause と呼ぶこともある.

 ・ 佐藤 武義(編著) 『展望 現代の日本語』 白帝社,1996年.
 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow