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『カオス的世界像』の著者スチュアート (481--82) によると,カオスについて興味深いことは,カオスと秩序との境目に近い「カオスの辺縁」において,ただならぬ何かが起こっているということである.
複雑性はカオスの概念の上に築かれるものである.実際,複雑性理論にうるさくつきまとう基本語――あるいはより正確には慣用句――は「カオスのふち(辺縁)」という語句である.カチカチと規則正しく時を刻む,歯車でできた時計仕掛の宇宙のように,いくつかのシステムは非常に単純な仕方でふるまう.しかし,カオス現象を示すシステムはもっとずっと複雑な仕方でふるまう.その極端な例として,気体分子の全体としてのランダムな運動がある.その中間にあるシステムは,もっと興味深い類のふるまい――複雑ではあるがパターンを暗示するようなふるまい――を示す.これらの複雑ではあるが組織化されたシステムは,まさに秩序とカオスの間の遷移状態にあるように見える――そして,それこそが「カオスの辺縁」なのである.ここで示唆されるのは,淘汰(選択)あるいは学習によってシステムがこの境域に行きつくということである.あまりに単純なシステムは,競合的環境のなかでは生き残れない.なぜなら,より複雑微妙なシステムはそれらの規則性を食い物にすることによって単純なシステムを出し抜けるからである.(もしもある現金輸送会社の車が,毎週金曜日の午前十時に銀行からお金を受け取り,正確に同じルートを通って輸送するとしたら,強盗はいとも簡単に現金強奪劇を演ずることができるだろう.)まったくランダムなシステムもまた,生き残らないだろう.なぜならそういうシステムは,秩序のある(コヒーレントな)ことは何もなし遂げられないからである.(もしも現金輸送車がまったくランダムなルートをとるとしたら,銀行に到着するまでに時間があまりにかかりすぎ,到着する前にその仕事は別の会社に奪われてしまうだろう.)だから,生き残るという点では,全体としての構造を失ってしなわない程度にできるかぎり複雑化するのが利益になるのである.進化するシステムは,カオスの辺縁にとどまるよう強いられているのである.
言語体系も,環境の変化に柔軟に適応する体系である.言語変異や言語接触は「カオスの辺縁」ととらえることができ,まさにそこで最もおもしろい現象が繰り広げられている.言語は,生き残りに成功してきた,単純すぎも複雑すぎもしない1つのシステムなのである.
関連して,「#3111. カオス理論と言語変化 (1)」 ([2017-11-02-1]),「#3112. カオス理論と言語変化 (2)」 ([2017-11-03-1]) も参照.
・ スチュアート,イアン(著),須田 不二夫・三村 和男(訳) 『カオス的世界像 非定形の理論から複雑系の科学へ』 白揚社,1998年.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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