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[2016-02-29-1], [2016-03-01-1]に引き続き,Schmandt-Besserat による,証票として粘土のコマこそが文字の前段階だったのではないかという仮説について考える.紀元前4千年紀の終わりに,粘土のコマと,それを入れる粘土の容器 (bulla) を組み合わせた会計処理システムが発達したと考えられている.その bulla の表面には,中に入っている3次元の粘土のコマの種類と数をそのまま2次元的に反映した記号が刻まれている.これは一体何を意味するのだろうか.
当時の中東の織物取り引きの現場を想像してみよう.田舎の織物職人が,運搬業者を通じて,町の客へ織物を売ろうとしている.職人は,売りに出す織物とともに,その種類と数を記述する複数の粘土コマを封印した bulla を,運搬業者に持たせる.その際,職人は bulla の表面に本人証明の個人印も押しておく.町で待っている客は,運搬業者から商品の織物一式と bulla を受け取り,それが確かに当該の職人の手によって売られたものであることを印により確認するとともに,bulla を割って中のコマを数えることで,発送された織物の種類と数が合っているか,運搬途中で盗まれるなどしていないかを確認することができる.しかし,それほど疑わしくない場合には,わざわざ bulla を割って確かめる必要はなかったし,本人印を無傷で保存するためにはなるべく割らないほうがよい.そこで,後に,中に入っているコマの種類と数を2次元的に再現する方法,bulla の表面にコマを表わす記号を刻む方法が編み出された.そして,これこそが,物や数を表わす「文字」の発生だったのではないか,という.
やがて,中空の粘土容器 bulla そのものは必要でなくなった.表面に文字を刻めさえすればよかったので,より単純な粘土板という形態に落ち着いた.だが,粘土板とはいっても,実際には完全に平たいわけではなく,凸型のものが普通である.これは,かつての卵形の容器を思わせるものであり,形態的な連続性があるのかもしれない.
もしこの仮説を採用するならば,文字は意図的に発明されたのではなく,むしろ偶然に発明されたということになろう.3次元のコマを用いた行為をあくまで便宜のために2次元の印に置き換えただけであり,その行為が結果として書記という行為でもあったということである.
・ Schmandt-Besserat, Denise. "The Earliest Precursor of Writing." Scientific American 238 (1978): 50--59.
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最終更新時間: 2024-09-24 08:28
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