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hellog〜英語史ブログ / 2015-03-10

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2015-03-10 Tue

#2143. 言語変化に「原因」はない [language_change][causation][systemic_regulation][teleology]

 コセリウは,言語変化に「原因」はないと述べている.この一見不可解な謂いを理解するには,コセリウが「原因」という言葉で何を指しているかを正しくとらえる必要がある.基底にある考え方は,「#1056. 言語変化は人間による積極的な採用である」 ([2012-03-18-1]) と「#2139. 言語変化は人間による積極的な採用である (2)」 ([2015-03-06-1]) の標題の通りである.以下,「原因による説明と結果による説明。言語変化に対する通時的構造主義のたちば。「目的論」的解釈の意味」と題するコセリウの第6章 (259--343) より,3箇所を引用する(以下,原文の圏点は太字に置き換えてある).

言語の中には、したがって、変化をひき起こす「原因」なるものは存在せず(唯一の作用原因は話し手の自由だから)、またその理由も存在せず(それは常に目的の序列のものだから)、あるのは、話し手の言語的自由にゆだねられ、使用されながら同時にその表現の欲求に応じて変化をとげるところの「道具的」(技術的)な条件、状況である。体系のまさに「弱点」――新しい表現要求から見て、伝統的な手段にやどる技術的な欠陥――すらも変化の「原因」ではなく、言語的自由がとり組んで、「道具」それ自体の創造過程の中で解決すべき問題である。したがって、なし得る、そしてなさなければならないものは、自然の、あるいは自由の外にある「原因」をあれこれと探し求めることではなく、個々の歴史条件のもとで自由によって実現されたものを目的の点から正当づけることであり、新しく現われた形が変化に先行する言語の欠陥と可能性とによって、どのようなしかたで必然性もしくは可能性として決定(限定)されるのかをつきとめることである。 (286)

結局、目的性とは動機づけの一類型である。これは、「原因」が「それによって何かが生じ(存在するようになり)、変化し、あるいは消失する(存在をやめる)すべてのものである」かぎり、「原因」の一般的概念の中にそれとして含まれる。アリストテレスは周知のように四種類の「原因」を区別している。何かを作り出し、あるいは生み出すもの(作動者、すなわち第一始動因もしくは作用因)、それを用いて何かが作り出される素材(材質もしくは材質因〔質量因〕)、それから何かが作られる概念(本質もしくは形式因〔形相因〕)、それをめざして何かが作られるところのもの(目的因)(『自然学』II、3およびII、7)。したがって、目的性(目的因)とは、一つの原因であるから、「作用因」が自由と意図性とをそなえた実体であるときに、はじめて生じ得る原因である。そして、たしかにこの意味では、言語変化とは、実際にアリストテレスの言う四つの動機づけをそなえているがゆえに、「原因」をもつと言ってもまったく矛盾はない。つまり、新しい言語事実は、誰かによって(作用因)、何かをもって(材質因)、作られるものの観念をもって(形式因)、何かのために(目的因)作られるものだからである。われわれが言語変化には「原因がない」と言うのは、自然科学的な意味での原因がないというだけのことであって、言いかえれば、――物質的なもののばあいを除いて――自由の外にあって、「客観的」で自然物のような原因はないという意味においてのみ、そう言っているのである。われわれはそれ自体としては正当な「原因」という用語の使用に反対しているのではなく、そこに付与されている意味と、じつは原因でも何でもない諸状況を決定的な原因と見る主張に反対しているのである。 (290--91)

言語変化は、ある条件のもとに生じるものではあるが、条件そのものからは生じない。言語事実は、話し手が何かのために創造するから存在するのであって、話し手自身にとって外的な、物理的必然の「産物」でもなければ、それ以前の言語状態の「必然的かつ不可避的な帰結」でもない。何か新しい言語事実の、本当の意味で「原因的」な唯一の説明とは、自由がある目的をもって、それを創造したのだとするものだけである。それ以外の説明は、物質的な起源の説明であり、また改新者や採用者としての個人の言語的自由が活動を行ったその条件の説明である。


 一般に言語変化の「原因」と呼ばれてきたものは,実は「原因」というよりは「条件」とみなすべきものだという議論である.真の原因とは,諸者の条件のもとにおける自由意志による採用である.この観点から,今後も改めて言語変化の原因と諸条件について考えていきたい.

 ・ E. コセリウ(著),田中 克彦(訳) 『言語変化という問題――共時態,通時態,歴史』 岩波書店,2014年.

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