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hellog〜英語史ブログ / 2015-03-04

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2015-03-04 Wed

#2137. エネルゲイア,パロール,ラング [linguistics]

 「#2125. エルゴン,エネルゲイア,内部言語形式」 ([2015-02-20-1]) で,言語をエネルゲイアとしてみる Humboldt の言語観を紹介した.「#2134. 言語変化は矛盾ではない」 ([2015-03-01-1]) で引用した言語学者 Coseriu も,言語を動的な活動と位置づける Humboldt 支持者であり,話す行為(パロール)を基盤とした言語論を展開している.以下,コセリウ (68--69) を引用する(以下,原文の圏点は太字に置き換えてある).

ところで、言語ラング話す行為の中で機能し、その中で具体的に姿を現す。この事実を言語のあらゆる理論の基礎として採用するならば、ことばはエルゴンではなく、エネルゲイアであるという、あのフンボルトの有名なテーゼから出発することになる。このテーゼはしばしば引用されるが、それは、たいていのばあい、さっさとこれを忘れさってエルゴンとしてのラングの中に逃げ込むためである。けれども、必要なことは、それを基礎として受け止めることである。なぜなら、ここには逆説や隠喩ではなく、一つの道理のありのままの確認があるからである。現実に、そして何かの比喩的意味においてでもなく、ことばは活動であって製品ではない。いな、ことばは活動であるから、この認識をもってのみ「製品」として抽象し研究することもできる。実際、アリストテレスの行った区別を想起すれば、一つの活動は次のように見えることができる。(a)活動そのものとして(カテネルゲイアン)、(b)能力における活動として(カタ・デュミナン)、(c)その製品の中に実現された活動として(カテルゴン)。あきらかなように、ここには三つの異なる現実があるのではなく、三つの側面、言いかえれば同じ一つの現実を見る三つの見方があるのである。他方、話す行為パロールとは、歴史的な共同体の成員たるそれぞれの個人によって実現される普遍の活動である。したがって、パロールは普遍の含みにおいても、個別の含みにおいても、また歴史の含みにおいても考察することができる。


 この後,コセリウは話す行為(パロール)を,アリストテレスの3分法と普遍・個別・歴史の3分法を掛け合わせた9通りの見方において再解釈する.その9通りの見方を表にまとめてみた.


カテネルゲイアンカタ・デュミナンカテルゴン
普遍パロール普遍の話す能力テキストの全体
個別個別のディスクール個別の話す能力テキスト
歴史具体的なラング固有語的所有としてのラング固有語的所有としてのラング


 コセリウにとって,ラングとは歴史的な観点からとらえられたパロールのことであり,その意味ではパロールよりも指示する範囲が狭い.ここから,パロールが理念としてラングに先立つことになる.一方で,歴史的な能力としてのラングは歴史的所与のものであるという点で,行為としてのパロールに先立って存在しているという事実もある.一見矛盾するようにみえるこの状況は,制限あるいは条件としてのラングと自由な活動としてのパロールの共存を確認することにより解消される.コセリウ (72) は,パロールを自由で目的のある活動として位置づけ,歴史的所与のラングと次のような形で共存していると説いた.

歴史的活動としては、話すとは、常にその歴史的なデュミナスにほかならないある一つの「言語ラング」を話すことであり、自由な活動という点では、話すとは、その能力に全面的に依存しているのではなく、それをのり超えることである。歴史的な話す行為パロールの中ですでに確立されている言語ラングは、いやおうなしに自由の限定を受ける。しかしこの限定は、新しい自由な行為に対する技術と資材である以上、本来の意味で「限界」というよりは、むしろ自由というものの必然的な条件である。話すという行為はすべて、歴史的であると同時に自由であるから、一方では歴史的「必然」、言いかえれば、歴史的に必然な条件――すなわち言語ラング――という極につながっているし、他方では、まだ定まらぬ意味の創造を目指し、したがって、すでに確立されたラングをのり超えてすすむもう一つの極につながっている。


 通時態と共時態の相克そのものを乗り越えようとする,恐るべき言語観である.

 ・ E. コセリウ(著),田中 克彦(訳) 『言語変化という問題――共時態,通時態,歴史』 岩波書店,2014年.

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