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hellog〜英語史ブログ / 2010-07-16

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2010-07-16 Fri

#445. ピジン語とクレオール語の起源に関する諸説 [pidgin][creole]

 現代世界に広く展開する pidgin や creole がそもそもどのように生じたかについては,定説はない.世界各地のピジン語やクレオール語がなぜ言語的に共通点が多いのかという問題とあわせて諸説が提案されているが,Jenkins が Todd に基づいて主だった説をまとめているので,それをさらに端的にまとめてみたい.大きく分けて,単一起源説 ( monogenesis ) ,多起源説 ( polygenesis ) ,普遍・統合説 ( universal/synthetic theory ) の三種類がある.各説のカッコ内の名称は,私が勝手にわかりやすくつけたもの.

・ The independent parallel development theory (化学実験説)
  ピジン語やクレオール語のような混成言語はそれぞれ独立して発生した.ただ,混成する素材は,およそ共通してヨーロッパの諸言語と西アフリカの諸言語などであり,混成した社会条件や物理条件も似通っているので,できあがった混成言語どうしが似てくるのは自然の理である.つまり,化学実験において,混ぜ合わせる物質が似たようなものであり,実験環境も似ているのであれば,たとえ別々の場所で実験しても,できあがった化合物はおよそ似ているだろうという発想.多起源説.

・ The nautical jargon theory (混成の混成説)
  ヨーロッパの異なる国籍の船員たちが航海中にコミュニケーションを取るときに発達した混成語がもとになったという説.この説によれば,西アフリカなどの人々と接する以前に,言ってみれば船の中でヨーロッパ語を基盤とする混成語ができあがっていたことになる.当然ながら航海用語を中心とした語彙が豊富で,この語彙が核となって西アフリカなどへ持ち込まれ,さらに現地の言語と混成した.一度ヨーロッパの言語どうしが混成したものが,再びヨーロッパ以外の言語と混成してできたと考えるので,混成の混成説と呼びたい.共通する航海語彙が多くのピジン語,クレオール語に見られることが,この説を支持する根拠となっている.語彙以外は独立的に発展したと考えるので,多起源説といってよい.

・ The theory of monogenesis and relexification (原ピジン語説)
  ちょうど印欧諸語が一つの仮説的な原印欧語 ( Proto-Indo-European ) に遡ると仮定しているように,世界各地のピジン語,クレオール語は Proto-Pidgin とでも呼ぶべき原初のピジン語に遡るという説.原ピジン語の最有力候補は,中世の地中海世界で十字軍兵士や交易者の共通語となった Sabir と呼ばれる言語ではないかといわれる.これが15世紀くらいにポルトガル語から語彙を提供されて,ポルトガル語版の Sabir となり,西アフリカに運ばれた.後にポルトガルの勢力が衰えるにしたがって,ポルトガル語版 Sabir は他の言語によって語彙を置き換えられ,英語版 Sabir,スペイン語版 Sabir,フランス語版 Sabir,オランダ語版 Sabir などの変種が生まれた.ポルトガル版 Sabir が基底にあっただろうということは,非ポルトガル語版の変種にも,saber "know" や pequeno "little; offspring" などポルトガル語に由来する語が見られることから推測される.すべてのピジン語,クレオール語は,語彙こそ置換されてきたが,原ピジン語の方言と考えられるという単一起源説である.

・ The baby-talk theory (赤ちゃん言葉説)
  共通語をもたない話者どうしがコミュニケーションを図るとき,互いにあえて単純な発音,文法,語彙を用いる傾向がある.これは言葉を理解しない幼児に話しかけるときの戦略に似ている.元の言語が同一であるとき,赤ん坊に話しかけるかのように極度に単純化した言語が互いに似てくるのは当然である.普遍説.

・ A synthesis (単純化普遍説)
  言語接触の現場では,普遍的な言語戦略,特に単純化の機能が作動し,元の言語が何であれ似たような単純化の過程と結果が見られるという.言語には,そして言語能力をもつヒトには,普遍的な言語行動の設計図が内在している ( innate behavioral blueprint ) という考え方が前提にある.世界各地のピジン語とクレオール語について input となった言語は異なっているかもしれないが(=多起源説),それを process する機構は bioprogram としてヒトに普遍的(すなわち共通)なので(=単一起源説),結果として output がおよそ似てくると考える.多起源説と単一起源説を統合 ( synthesis ) した普遍・統合説である.

 ・ Todd, L. Pidgins and Creoles. 2nd ed. London: Routledge, 1990.
 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

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最終更新時間: 2019-10-22 18:30

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